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不思議系ネタ

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有名な話なので、既に読まれたことがある記事が続く場合がありますが、ご了承ください。

奇妙で恐ろしい体験をしたんだが、おまえら聞いてくれないか・・・

2011年07月03日

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不思議な体験-
375:Aの友人2011/06/08(水) 03:16:24.50 ID:jByMOkYk0

「俺は0感」言い張るけどかなり霊感のある友人Aとの話をさせてください。
長文が書き込めないので、かなり細かく分けることになりそうです。
--
友人Aとは、かれこれ高校2年の頃からの付き合いになる。
Aの変な能力に気付いたのは出会ってすぐの出来事だったのだけれども
せっかくなので、高校を出てからAと俺に起きた恐ろしくて嫌な話を書く。

高3の3月、俺は付属の大学にエスカレーター式で進むことが決まっていたが、
3年から他大受験クラスにいたAの進路は白紙のままだった。
結局Aは卒業式の日にも来なかったし、
大学を1つも出願していなかったという噂が立って、教室はざわついた。


388:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/08(水) 06:04:42.10 ID:jByMOkYk0

連投規制もあるし、とりあえずここまでで切ります。
このスレ初書き込みなので、KYだったらすいません。
>>375が「かなり」言い過ぎでアホの子のようだ。

(補足がないと矛盾しているようなところがあるので説明)
Aのいた他大学進学クラス(超少人数)と俺の内部進学クラスは、
共同の授業は同じ教室で、特別授業のときだけ他大クラスが移動という
形式だったので、2、3年とAとはずっと同じ教室、修学旅行も同じ班でした。
C子と付き合い始めたのは5月の中旬でした。あと小「喬」でした。


390:本当にあった怖い名無し2011/06/08(水) 09:27:58.43 ID:IeCj+huV0

>>388
期待。続き待ってます


376:Aの友人2011/06/08(水) 03:18:25.55 ID:jByMOkYk0

いつも寝ているか、本を読んでるかでマトモに授業を聞いてないくせに
模擬試験では名前が出るような嫌味な奴だったので(ただし文系科目に限る)
当然のように進学すると思っていたけど、でも謎めいた進路もAらしいなということで皆落ち着いた。
Aにはメールしてみたけど、返事は来なかった。
元々高校にもあまり来ないでフラフラしてたし、電話にも出ない奴だったから気にしなかった。
ただAと一番仲良かった俺は、Aが来ないと体育のときの準備体操のペア作りでぼっちになったり
微妙な奴と組まなきゃいけなくなったりで、つらいときもあった。


377:Aの友人2011/06/08(水) 03:24:16.64 ID:jByMOkYk0

大学は実家の隣の県にあって、通うにはちょっと遠いってんで
俺は大学から電車で20分くらいの場所にアパートを借りることにした。
ちょうど、俺より出来のいい弟妹が受験の年だったので、
俺が出て行くのは父母ももろ手をあげて賛成した。
ツタヤもない寂れた街だったので、家賃も安くていい物件が見つかった。
新生活が始まり、Aに会いたいと思いつつもなかなか連絡できないまま(しても返事ないし)
とうとう夏が来て、俺にはなんと入ったサークルで彼女が出来た。名前はC子とする。


378:Aの友人2011/06/08(水) 03:29:52.49 ID:jByMOkYk0

ゆら帝とかナンバガが好きな女子って初めて会ったから、舞い上がっちゃったんだよね。
そんなことはどうでもいいか。C子とは同じ高校だったはずなんだけど、
大学に入ってから知り合った。うちの高校は10クラス以上あったから、
3年通ってて顔を知らない人間がいるのも当たり前だった。しかもお互い目立つタイプではなかったし。
C子は俺の家より大学から遠い、繁華街のある駅の、ちょっときれいな5階建ての
マンションに住んでいた。社会人2年目の姉とルームシェアしているというかたちになっていたんだけど、
あんまり姉は帰ってこないと言っていた。C子はかわいいんだけど微妙に地味でサブカル女子ってかんじで
男友達のノリで話しやすかった。本当に、初心者向きの女性だった。


379:Aの友人2011/06/08(水) 03:34:40.85 ID:jByMOkYk0

駅のホームに行ったらC子が途中下車して待っててくれて、
一緒に授業出て、サークル出て、夜はみんなでわいわい飲みに行って。
サークルには、俺とC子は友達以上恋人未満な関係ってことにしておいたから
先輩とかから焚き付けられたりして、ギャーギャー言って。
大学生ってなんて楽しいんだろうと、毎日テンション高かった。
俺の人生の春だった。C子が屋久島に行きたいとよく言ってたので、俺は
こっそり旅行計画を立てた。バイトのシフトを増やして、朝まで労働に励んだ。
大学は少々さぼりがちになってきた。それでも、どんなに眠くても
C子が駅で待つと悪いので「今日は行かないわ、ごめん」というメールを
ちゃんと送ってた。


380:Aの友人2011/06/08(水) 03:44:21.35 ID:jByMOkYk0

C子はそんな俺に最初は「えー、寂しいよ!」なんてメールを返してくれてたけど
だんだん面倒くさくなったのか「了解」とか、指立ての絵文字1文字だけとか、
あとは前の晩に「明日どうするの?」と俺にメールや電話で確認するようになった。
勝手な話だが、俺はそれがちょっとプレッシャーになってきていた。
そしてある夜の電話で「もういいよ待たなくて。悪いから」と切り出した。
C子は心なしかほっとした声で「わかった。寂しいけれど、しょうがないね」と言った。
そして深夜バイトを終えた俺は、C子に「今日行けない悪い」と連絡しなくていいという
開放感を味わいつつ、ベッドにダイブした。朝方って涼しくて気持ちいいよね。
新聞配達のバイクのエンジン音が遠ざかるのを聞きながら、意識が沈み込んでゆく…ゆく…ゆく…。
…ブィーッ ブィーッ ブィーッ
携帯のバイブが枕元で鳴った。


381:Aの友人2011/06/08(水) 04:45:02.42 ID:jByMOkYk0

窓に目をやると、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
布団に入ってからせいぜい2時間くらいしか経っていなさそうだ。
目覚ましなんかかけていたっけと携帯を見ると、着信:C子 の文字が光っていた。
昨日の晩に一緒に学校行かないと決めたばかりだし、なんだろう?と気になって
眠い目をこすって応答した。「もしもし」
「俺君?C子だよ。今駅に向かって歩いてるところ。37分発の電車に乗れそう。俺君は今日来るの?」
明るい声のC子だった。待ち合わせが当然のような口ぶりだったので、眠りを邪魔された俺は
内心ちょっとむかついたのもあり、きつめの口調でC子に言った。
「昨日言ったじゃん、もう朝待ち合わせするのやめようって。
 俺バイト明けだからさ。もうちょっと寝て、適当に起きたら適当に行くから」
「…そっか。そうだったね。寝てるとこごめんね。起きたら連絡してね。じゃあおつかれさま。おやすみ」


382:Aの友人2011/06/08(水) 05:01:00.16 ID:jByMOkYk0

しゅんとしたC子の顔がありありと浮かんでくるような、心底済まなそうな声だった。
昨日、俺が待ち合わせをやめたいという話を切り出したときは
C子の返事がなんとなくほっとしたような声に聞こえたので、C子も待ち合わせが負担だったんだなと思っていたけど
やっぱり俺と一緒に学校行くのが楽しみだったんだなと思うと、つらく当たってしまったC子に済まなく思い、
そしてC子がますます愛しくなってたまらなくなった。俺は飛び起きて
「C子好きだ」なんて叫びながらシャワーを浴び、支度をして大学へ向かった。
とはいえ大学に着いたのは1限目が終わるギリギリの時間だったので、C子を驚かしてやろうと
講義室の近くの階段でC子が通るのを待っていた。C子の姿はいつまで待ってもなかった。


383:Aの友人2011/06/08(水) 05:02:49.13 ID:jByMOkYk0

知り合いを呼び寄せて聞いたところ、C子は来てないということだった。
携帯を見ると着信などは入っていない。俺は迷わずリダイヤルからC子の番号を押した。
応答はなかった。

天気もいいし、自主休講にして買い物にでも行くことにしたのかなと俺は単純に思った。
今思い返せば、朝のいざこざでC子を傷つけたかもしれないと焦るところなのかもしれないけど
当時の俺は、自分のテンションの高さも相まって妙に楽観的だった。
次の授業まで時間があるので久しぶりに部室に行った。
バイトに精を出しすぎていて、サークルにも殆ど挨拶に来てなかった。
体育会系のサークルではないから、活動なんてあってなかったようなものだったけど。


384:Aの友人2011/06/08(水) 05:06:12.52 ID:jByMOkYk0

部室には1つ上の先輩しかいなくて、先輩はおやつを食べながら写真集を見ていた。
俺が挨拶すると「おっ、お前」と顔をあげて、そしてプリンスデモキンそっくりな顔を歪ませて
「C子と付き合ってるんだって?黄色い太陽見すぎて単位落とさないようにしろよ」とヒヒヒと笑った。
当時の俺は「黄色い太陽」が何を意味することなのか全くわからなかったので
「黄色い太陽ってなんすか、映画すか」と先輩に聞いた。先輩は鳩が豆鉄砲食らったような顔して
ゴニョゴニョと説明してくれた。先輩は俺とC子が朝から晩までセックス三昧と思っていたらしい。
そんな下卑たことを得意気にわざわざ言ってくるとは、これだから童貞は。
「俺はC子と同棲なんかしてないですよ」
そもそも俺とC子はその時点では肉体関係はなく、清い交際だった。


385:Aの友人2011/06/08(水) 05:08:19.52 ID:jByMOkYk0

C子を家に連れ込みたい気持ちは有り余る程あったが、
アパートの大家さんと母親がガッチリ挨拶していたのもあり
大学入学して早々女の子を連れ込むのは避けたかった。
マザコンかもしれないけど下の弟妹が優秀というコンプもあって、
なんとなく俺はC子を連れ込むタイミングを先送りにしていた。
だから余計夏の旅行計画にも力が入ってたんだけどね…。
「そっか、C子もしばらく顔出してないからさ、
 お前と2人でさぞ退廃した生活を送ってるんだと思ってた」
「えっ、C子も来てないんですか」
俺は混乱した。だってC子は講義やサークルに顔を出さない俺を怒ったりしてたし。
部室を後にして、俺は外のベンチに座ってぼーっとしていた。
着信が残っているのだから、かけ直してきてくれてもいい頃なのに
C子からの連絡はまだなかった。


386:Aの友人2011/06/08(水) 05:13:27.96 ID:jByMOkYk0

無駄に天気が良くて、寝不足の頭がクラクラして、俺は太陽を呪いつつ
太陽の下のどこかにいるはずのC子を思うと、叫びたくなるような、吐きたくなるような気分だった。
何故かはわからないけれど、俺はそのとき無性にAに会いたくなった。
手が勝手に携帯のボタンを押して、Aの番号に発信していた。呼び出し音が鳴る。
とはいっても、Aと何を話したいわけでもなく、思考は停止していた。
同じリズムを繰り返す呼び出し音を聞きながら、俺の目の前はモヤがかかったようだった。
そのとき、ブツッとそのリズムを破る音がした。
「おう、何?」
数ヶ月ぶりに聞く、懐かしい声だった。


387:Aの友人2011/06/08(水) 05:15:54.20 ID:jByMOkYk0

さっきまで会っていたクラスメイトから電話が来たかのような、
なんの懐かしみも喜びも感じさせないAの調子に俺は、ああAだと嬉しくなった。
「おい、A、てめー今何やってるんだよ、メールも返さないで」
「プレステだよ。(エーイ!エーイ!)あ、あとでかけ直すから待って」
電話は一方的に切られた。
Aがやっているゲームは俺も持ってたからすぐにわかった。
しかもキャラまでわかった。三国無双で、小蕎を使っているっぽかった。
当時は無かったんだけど、今なら当時のAを的確に表す言葉がある。
高校を卒業したあと、Aは立派なニートをしていた。
「あとでかけ直す」と言ったAと次に連絡がついたのは、2週間経ってからのことだ。
そのときにはもう、C子は完全に手遅れだったし、俺もかなりボロボロだった。


389:本当にあった怖い名無し2011/06/08(水) 07:51:55.65 ID:QfHWC9Xv0

先が気になるね
続き待ってます


391:本当にあった怖い名無し2011/06/08(水) 09:48:51.33 ID:SdthGVewO

序盤のどうでもいい件いらね


392:本当にあった怖い名無し2011/06/08(水) 18:22:58.82 ID:uaLgh+EL0

これは期待できる


393:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/08(水) 19:38:48.30 ID:jByMOkYk0

反応ありがとう。序盤のどうでもいいくだりも
のちのち絡んでくるから長い目で読んでくれると嬉しいです。
続けます。


394:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/08(水) 19:40:15.10 ID:jByMOkYk0

Aから電話を切られた俺は、
大きい体を丸めてゲームの中の少女を一心不乱に操るAの姿を想像したら
あまりにもバカバカしくなって、じわじわと元気が出た。
C子のことも、嘘をつかれた気がしてショックだったが、冷静に考えてみれば
サークルもたいした活動をしてないから出る必要なんてないし、
講義に関しても、単にC子もサボって息抜きしているだけなのを
俺には格好つけて言わないでいただけかもしれない。
とりあえず俺は、その日のところは家に帰って寝ることにした。授業?知らん。


395:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/08(水) 19:41:42.46 ID:jByMOkYk0

電車の中で爆睡して、コンビニで
好物のとろろ蕎麦などを買い、アパートに戻った。
ふと不思議なものが目についた。
俺の部屋のドアの前に、ケルンみたいに石ころ4、5こが積んであったのだ。
俺が住んでいるのは1階の、階段前の部屋だった。
いつも同じアパートの母子家庭の小学生が、道路やアパートの廊下に
絵を書いたりして遊んでいるので、子供の悪戯だろうと気にしなかったが
崩すのはなんとなくかわいそうなので、小さな山のまま移動させてやった。
この石の山というのは、もしかしたら気付かなかっただけで、
今までもあったのかもしれない。そういえば
俺の家の前にはたまに石ころがバラバラ落ちてたような気がしないでもないが
実際のところは今もわからない。


396:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/08(水) 19:46:32.47 ID:jByMOkYk0

俺はそばを食べた後、死んだように眠った。
起きて携帯を見ると、C子からメールが入っていた。
「メール気付かなかった!ごめんね、具合悪くてずっと寝てたの。風邪かな」
電話をかけてC子の声が聞きたかったが、遠慮して、朝のことへの謝罪のメールを送った。
C子からの返事はすぐに返って来たが、意外なものだった。

「なんのこと?」

俺は、朝の出来事を説明して、また謝った。
「あれ?電話なんかしちゃったんだ。えー!ごめんね寝ぼけてたみたい。
 私は今日は家から出てないよ。ずっとパジャマだもん。」


403:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/08(水) 20:06:51.76 ID:jByMOkYk0

ちょっと用事が出来たので中断します。

>>396
>「メール気付かなかった!ごめんね、具合悪くてずっと寝てたの。風邪かな」
→「着信気付かなかった!」の間違い


397:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/08(水) 19:47:36.72 ID:jByMOkYk0

パジャマという単語にC子のパジャマ姿を想像して唾を飲みつつ、
人って、けっこうリアルに寝ぼけるものなんだなーと俺は思った。
明日は学校に行けそうかと聞くと、C子からは「無理かも」のメールが返ってきた。
「お見舞いに行くよ、なんか食べたいものあったら買ってくる」
「ありがとう俺君。お姉ちゃんがいるから大丈夫」
「そっか。お大事にな」
「ありがとう」
そんな他愛もない会話をして、C子とのメールは終わった。
俺はバイトへ行く支度をしながら、C子に何かしたいと考えていた。
C子の家へは、部屋に入ったことはなかったが
(お姉さんと鉢合わせしたら嫌だし)
マンションの前まで送って行ったことは何度かあるので
場所は知っていた。
よし、なんか食料を買い込んで、ドアの前に置いて
ピンポンダッシュしよう。俺はそう決めた。


398:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/08(水) 19:49:16.74 ID:jByMOkYk0

時計を見るとまだ8時。バイトは10時からなので時間はまだある。
俺は飛び出すように家を出て、
コンビニではなく、駅前のスーパーで
おかゆやスープ、バナナ、ヨーグルト、そしてC子の好きな
梅味の飴やお菓子などを買って電車に乗り込んだ。
電車の中では、ピンポンダッシュしたあとで
すぐメールが送信できるように、C子へのメールを書いた。
「ドア開けてみて。たくさん食べて早く元気出せよ!愛してる」
これからも一緒に云々、
C子と出会えてよかった云々みたいなことを書いて
鼻を膨らませながら下書き保存した。

かくして、世界で最高の彼氏みたいな気分になった俺は
C子のマンションに到着した。


399:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/08(水) 19:53:32.57 ID:jByMOkYk0

マンションの玄関ホールでは、明らかにVシネマから出てきたヤクザみたいな
おっさんがエレベーターに乗り込むところだったので、俺はびびった。さすが繁華街。
ヤクザは俺に気付くと、親切にも開ボタンを押して、俺を睨みながらドアを開けていてくれた。
「あ、すんません、俺階段なんで大丈夫です!」
ヤクザは何も言わずドアを閉め、憮然としたまま登って行った。
俺は心臓がドキドキして、ヤクザに階段と言った手前、マンションの階段を探して5階まで登った。
息を切らせながら5階に近づいたとき、カンカンカンカンとけたましい足音がした。
女性のミュールの音だ。金髪に近い髪をアップにして、バッグを小脇に抱えて
派手な服装をしている女性が廊下を歩いていた。


400:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/08(水) 19:59:12.76 ID:jByMOkYk0

俺はあんまりギャル系の女性が好きではなかったので
あー、歩き方ひとつとっても自己主張が激しいというか、なんというかと
冷めた目でその後ろ姿を見送っていたが、そのギャルが彼女の部屋の前あたりで
立ち止まって、鍵を差し込んだので俺は慌てて隠れた。
あれが姉ちゃんとは、「文房具のメーカーで事務」と聞いていたが
どこから見たって水商売じゃないのかと俺は思った。
ギャルは彼女の部屋に入った。俺はスーパーの袋に目を落とした。
なんかちょっと勢いを削がれたというか、どうしようと思った。


401:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/08(水) 20:00:19.34 ID:jByMOkYk0

そんなこんなで階段で考えていると、C子の姉が部屋から出てきた。
忘れ物かなんかを取りにきただけなんだろうか。
カンカンカン、とまたけたましく廊下を歩いて、姉はエレベーターに乗りこんだ。
隠れながら覘いただけなので、しっかりは見てないけれど
目の周りが黒々としていて、グロスでギラギラした唇を微妙に突き出して歩く姉の顔は、
C子とは似ても似つかぬ、性格のキツそうな顔だった。

俺は姉の乗ったエレベーターが1階へ着いたのを見届けると、
C子の部屋の前に食料の詰まったスーパーの袋を置いた。


402:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/08(水) 20:03:58.15 ID:jByMOkYk0

そして下書き保存していたメールを送信し、階段を駆け下りた。
口元がどんどんにやけて、体中の毛穴から熱が放射してる気分だった。
C子、驚くかな。姉のことは忘れて、俺は満足だった。
足が軽くて、時間さえ許せばこのまま走ってバイト先へ行きたい勢いだった。
ドアを開けて、スーパーの袋を見つけるC子の顔を想像した。
玄関ホールへ着いて、何気なく確認してみると、
姉と一緒に下がったはずのエレベーターは再び5階で止まっていた。
マンションにはさっきのヤクザを始め、他にも住人がいるはずだし、
エレベーターがどこにあろうがどうでもいいことだったのだけど、そのときの俺に
それが妙に気にかかったのは、もしかすると何らかの予感があったのかもしれない。


404:本当にあった怖い名無し2011/06/08(水) 21:06:18.12 ID:2kx8P1ZT0

('A`)待ち遠しい


405:本当にあった怖い名無し2011/06/08(水) 21:13:54.61 ID:etmu1Y5u0

ハードル上げるね~


407:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 00:25:58.68 ID:4NtVoCAK0

バイト先に着いて、事務室で制服に着替えているときに携帯が鳴った。
「俺君、今大丈夫?びっくりしたよ。ありがとう。メールくれたときにマンションにいたの?」
C子からの電話だった。「そうだよ」と返すと、
「どこかに俺君が隠れているのかと思って探しちゃったよ。顔見せてくれてもよかったのにー」と
C子は笑った。薬を飲んで横になっていたせいかだいぶ体調はいいし、
俺の差し入れを見たら元気が出たと言ってくれた。
俺はC子に、なんでC子も最近サークルに顔を出していないのに、行っているふりをするのかとか
聞きたいことはあったけれど、C子の声を聞いたらどうでもよくなった。
「じゃあ俺もう行かなきゃいけないから」
「あ、うん。ごめんね。本当にありがとう。俺君バイトがんばってね」
「おやすみ」
がんばってね、という言葉はあまり好きではなかったが、C子に言われると素直に嬉しかった。


408:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 00:28:06.49 ID:4NtVoCAK0

よし、がんばろうと仕事を始めたはいいものの、
12時を回ったあたりで、なんだか頭がフラフラしてきた。眼球の奥が焼けるように熱くて視界が回る。
やがて俺は、制服のシャツの色が変わるくらい汗をかき始めた。
バイトリーダーのおばさんの「俺君、熱あるんじゃない。もう今日は回せるから、無理しないで帰った方がいい」
というお言葉に甘えて、終電にも何とか間に合ったので家に戻った。
風邪流行ってるのかなーと独りごちつつ、俺は部屋で布団にくるまった。
相変わらず寒気がして、汗が止まらなかった。1人暮らしを始めて病気になったのは
これが初めてのことだったから、心細かった。


409:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 00:29:18.96 ID:4NtVoCAK0

胃も動かないようで胃痛と吐き気が止まらず、また夕方にたっぷり寝たせいもあって
寝たいけど寝れず、かといって起き上がりもできずにずっと体を丸めていた。
1時間くらい経った頃だろうか。外からカンカンカン、と、ミュールの音が響いてきた。
アパートの2階に住む母子家庭の家の女性は水商売だったから、
こんな時間に帰宅するのは、たぶんその女性かなと思った。
ミュールの足音は案の定アパートに近づいてきた。
なんだようるせーな近所迷惑だな、とイライラした。
足音は俺の部屋の前で止まった。しかしいつまでたっても
女性の部屋のある2階への階段を上る音が聞こえない。


410:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 00:31:06.01 ID:4NtVoCAK0

おかしいな、と不思議に思っていると、妙に冷たい風がひゅーっと通って
布団からはみ出た俺のつま先をくすぐっているのに気付いた。その途端だ。
バタン!という、何かを閉める金属音が突然部屋に響き渡り、俺の体はびくついた。
この音には聞き覚えがあった。ドアの新聞受けの蓋だ。
こんなときに、酔っぱらいの悪戯かよ、と思って体を起こそうとしたとき、また風が通った。
そして

「ふふっ」

女の静かな笑い声が聞こえた。


411:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 00:35:44.87 ID:4NtVoCAK0

声は冷たい風と一緒に部屋に直接入ってきて、しんとした俺の部屋の中で妙に響いた。
それからまたバタン!と新聞受けの蓋が閉じた。
蓋が閉まる瞬間に、真っ暗な新聞受けの向こうでぎらりと目玉が2つ光って、
続いて笑みのかたちに歯列を見せる唇が見えた気がして
背筋がキーンとして、そのあと体全体がぞくりと震えた。俺はしばらく布団から体を起こして
新聞受けを見つめたまま動けなかったが、どこかの部屋でトイレを流す音が聞こえて、
ようやくはっとした。
頭にまず浮かんだのは、幽霊とか変質者の悪戯とかではなく
この部屋の前の住人のストーカーじゃないか?ということだった。


412:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 00:38:49.73 ID:4NtVoCAK0

一応何かあったときのために、まず部屋の電気を全部点けてから
そろりそろりとドアの元へ行って戸締まりを確認した。
ドアを開けて外を確認する勇気はなかった。窓も全部閉まっているのを見て
俺は布団へ倒れ込んだ。とりあえず前の住人について
大家さんに聞く必要があると思いつつ
何度も読んで飽き飽きしたギャグ漫画を読んで、なんとなく気分がまぎれたところで眠りについた。

次の朝、目覚めてみると体調もすっかりいつもどおりで、
なんとなく昨日のことは夢だったような気がしないでもなく
俺は普通にトイレに行き、シャワーを浴び、
冷蔵庫の中のサンドイッチを食べ、朝の支度を始めた。


413:本当にあった怖い名無し2011/06/09(木) 00:48:51.26 ID:qkggAiNC0

(゚∇゚)つ④


414:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 00:55:43.06 ID:4NtVoCAK0

もしC子も元気になっていたら、学校で会えるだろうと
教科書やノートやMDプレイヤーをショルダーバッグに入れて
俺は勢い良くドアを開けた。そのときだった。バラバラバラ、とドアの向こうで
何かが崩れて散らばる音がした。足下を見ると石ころだった。
不審に思いながらも、ドアから顔を出した俺が目にしたものは
「うわっ」
まず、思わず声が出た。
今こうして思い出すのもおぞましいのだが、
女性用の下着がドアノブにかかっていたのだ。
しかもその下着は、茶色い血で汚れていた。


415:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 00:57:21.51 ID:4NtVoCAK0

俺はとりあえずコンビニの袋で手にカバーをするようにして下着を掴み、
そのまま下着を袋に入れて口を固くしばった。袋をもう1枚重ねた。
吐き気がした。本当になんなんだ。
直接下着に触れてはいないけれど、何度も何度も俺はハンドソープで手を洗った。
下着がドアにかかっていたのが、
他のアパートの住人や通行人に見られていたら嫌だなとも思った。
とりあえず大家さんには帰ってから報告することにして
まず学校へ向かった。講義には何とか間に合った。
C子の姿はなかった。


416:本当にあった怖い名無し2011/06/09(木) 00:59:58.75 ID:qkggAiNC0

(`・ω・´)つ④


417:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 01:00:41.29 ID:4NtVoCAK0

書き溜められなかったので、今日はここまでにします。
オカ板、連投規制がキツいですね。すぐおさるになる…。


418:本当にあった怖い名無し2011/06/09(木) 01:01:16.11 ID:qkggAiNC0

工工工エエエエエエェェェェェェ(゚Д゚)ェェェェェェエエエエエエ工工工


419:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 01:01:52.63 ID:4NtVoCAK0

(`・ω・´)つ④  は援護だろうか。ありがとう。


420:本当にあった怖い名無し2011/06/09(木) 01:03:45.43 ID:qkggAiNC0

④ 4円=しえん=支援、ね(゚∇゚)b 


421:本当にあった怖い名無し2011/06/09(木) 01:17:20.01 ID:TvWqu0/N0

おもしろい!
続き期待!


422:本当にあった怖い名無し2011/06/09(木) 01:23:14.31 ID:WvnUzU630

引っ張るなぁ~


423:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 05:14:51.97 ID:4NtVoCAK0

久しぶりに出た講義は、わけがわからなかった。
C子にノートをコピーさせてもらえばいいやと
タカをくくっていたので、これはやばいと最近の自分の生活を初めて後悔した。
高校でのクラスは違ったが、なんとなく同じ高校出身ということで
顔見知りだった男子学生に、授業の進み具合を聞くことにした。
男子学生、E君は出席率が良かったみたいで、嫌な顔もせず丁寧に教えてくれた。
E君が屋外の喫煙所にタバコを吸いに行くというので、
俺も自販機でジュースを買い、付き合うことにした。
最初は大学が遠いとか、他愛もない話をしていたのだけれど
E君がふと黙って、何か考え込むような顔をしてから
声のトーンを少し落として俺に言った。
「俺君ってさ、いつもC子と一緒にいるよね。付き合ってるの?」
「うん」
俺は正直に答えた。もしかすると、これが聞きたくて
E君は親切に色々教えてくれたのかな、と思った。
「俺君は11組って言ってたよな。俺は3組だったんだ」
「あ、それってC子と一緒だよね」
「そう」


424:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 05:15:59.14 ID:4NtVoCAK0

またE君が黙り込んだので、俺はE君の次の言葉を待った。
が、しびれを切らして先に切り出したのは俺だった。
「C子のことで何かあr」
「俺君さ、C子のこと知ってて付き合ってるの?」
E君が突然俺に食いつくように聞いてきたので、俺はちょっと面食らった。
「知ってるって何が?」
「3組出身者ってうちの学部なにげに多くてさ。みんなで言ってたんだ。
 俺君すげーなって」
回りくどい言い方に、俺は少しイラッとした。
「…どういうこと?」
「俺君には失礼な話かもしれないんだけど、C子ってちょっと変なんだよ」


425:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 05:17:17.21 ID:4NtVoCAK0

うちの高校は、8割以上の人間が内部進学するという
わりとバカな私立大学の付属高校だったので
出席日数などはかなりゆるかった。
卒業式の日と、あとは片手で数えられる程の日数しか来なかった
不登校の生徒も普通に卒業できて、今は同じ大学にいるらしいし
Aだって、うちの高校じゃなきゃとっくに留年していたはずだ。
だから学校に来ない奴というのは珍しくなかったので
その理由が面白いほど、噂に上った。
他のクラスで2回も中絶して
ずっと学校を休んでいた女子生徒がいるという話は
俺もどこからか耳にして、知っていた。
でも。それにしたって、その噂になった女子生徒というのがC子だなんて。


426:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 05:18:35.90 ID:4NtVoCAK0

「しかも2回どころじゃなくて、何回も、らしい」
E君は付け加えた。

「…どんな奴と付き合ってたんだろう」
「相手は全部違ったらしいよ。上級生とか、あと援交もしてたらしくてさあ」
E君は、最初ほど俺に気を使った話し方ではなくなっていた。
俺はもう、すべてに対して「そっか」と乾いた返事しか出来なくなっていた。

それからE君とどう別れたかは覚えてないが、次の授業の教室に遅れて入って
教授の冷たい視線を受けても、俺はC子のことばかり考えていた。
朝、俺がホームの階段を上ったところで
俺を見つけて手を振るC子。電車の窓にもたれて、ぼーっと景色を眺めるC子。
目が茶色にきらきら光って、俺のどうでもいい話で笑ってくれるC子。


427:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 05:19:41.04 ID:4NtVoCAK0

突然ジーンズのポケットに入れた携帯の着信音が鳴って、俺は慌てた。
マナーモードにしておくのを忘れた。
教授の顔がこわばる。ああ、この授業はもうダメだな、と思った。
C子からのメールだった。
「俺君、今日はちゃんと授業出てるんだね、偉いぞっ!昨日は本当にありがとうね。
 おかげさまで、C子はもう元気だよー!一応お姉ちゃんにも言われたので
 今日のところは大事をとって、ゆっくりおやすみします。
 明日は午後の授業ないよね?もし俺君に時間があったら家に来ない?
 お昼ごはんでも夜ごはんでも、俺君の好きなものをごちそうしますっ。
 風邪とか伝染る病気じゃなかったから安心して(笑)」
絵文字のたくさん入った、いつものC子のメールだった。 


428:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 05:21:36.43 ID:4NtVoCAK0

俺は胸が痛くなった。噂は噂だ。C子の口から本当のことを聞くまでは、
C子を好きだという自分の気持ちを大事にしないといけないと唇を噛んだ。
「ありがとう、体はもう本当に大丈夫?俺もC子に会いたかった。
 昼に行っていい?野菜が食べたい」と、メールを送った。
なにそれ、とか、明日また連絡するね、とか、いつもなら楽しいはずのやりとりも
どことなく胸が苦しかった。

アパートへ戻って、ちょうどアパート前の花壇を手入れしていた大家さんに
朝方からの気味の悪い出来事について話し、前の住人について聞いた。


429:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 05:24:34.88 ID:4NtVoCAK0

「俺君の部屋に前住んでたのは、ダンスをやってるOLの子だったわよ。
 今は留学してアメリカにいるから、女のストーカーってことは無いんじゃないかしらね。
 でも気味が悪いわね。交番に知らせておくわ。その、パンツってある?」
「あ、ゴミ袋に入れたままです」
「交番に持って行くから貸して」
俺はゴミ袋から、今朝の下着を二重に包んだビニール袋を出して大家さんに渡した。
朝の光景を思い出すと、やはり胃の底が痛んで、吐き気がこみあげてくる。
大家さんは軍手のままそれを受け取り、交番へ歩き出した。俺は慌ててそれを追いかけた。
警官は袋の中身を確認すると、やはり顔をしかめた。
パトロールを強化してくれるということになり俺は少しほっとした。
警官に、俺が嫌がらせを受ける心当たりはあるかと聞かれたが
全く無いと答えた。別の警官は「ただの落とし物かもしれませんからね」と言った。
朝方の変な女の笑い声との関連も説明は出来なかった。大家さん曰く「不気味ね」。
本当にその通りだった。


430:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 05:29:27.65 ID:4NtVoCAK0

大家さんに施錠はしっかりね、などとアドバイスを受け
一応浴室や押し入れに誰もいないのを確認してから
バイトもないので俺はごろりと横になって、卒業アルバムを開いた。
実家に置いていこうかとも思ったけど、
見ていると楽しい気分になるので持ってきたものだ。
特にスナップ写真のコラージュで出来た、クラスごとのページが好きだった。
1人最低1回入るように編集されていて、
編集委員の女子のカラフルな落書きで埋め尽くされている。
うちの高校は3年次のクラス替えがないので、
つまり2年ぶんのクラスの思い出が詰まっているのだ。
俺の写真はAと一緒に写ったものだ。修学旅行先の沖縄でおどける俺と
クラスメイトの後ろで、半目のAが腕を組んで立っている。
そのAの横には矢印が引っ張ってあって、
ピンクのポスターカラーで「ピエールマジキモイ(笑)」と書いてある。
Aは女子からピエール瀧に似ていると評判だったのだ。
俺たちの下には「俺と○、はしゃぎすぎ!」と落書きしてある。
俺はC子のいた3組のページを開いた。


441:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 07:11:07.38 ID:4NtVoCAK0

>>430
俺たちの下には「俺と○、はしゃぎすぎ!」と落書きしてある。
アルバム編集委員の女子とまともに話したことは無かった気がするが
それぞれのあだ名や名前を書いて、みんなが仲良かったように見せるのも
編集委員の手腕の見せ所だ。
俺はC子のいた3組のページを開いた。

文章が消えてた。


431:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 05:31:50.41 ID:4NtVoCAK0

黒髪で化粧っけのないC子が笑っていた。
C子と出会ったときにもアルバムを確認したので、この写真は知っている。
3組のスナップ写真のページをめくった。ここにもC子はちゃんといる。
C子が不登校?そんなわけない。
新聞作りか何かだろう、床に紙をしいて、C子がマーカーを持って笑っている。
その隣には、まだあどけない笑顔のE君がいた。
おい、なんでE君がいるんだよ。俺は目を凝らした。
すると、紙に「マゼラン世界一周」と書いてあるのに気付いた。
班ごとの世界史新聞の課題は、1年の5月初旬の授業でやったものだ。
廊下中に貼り出されたから、よく覚えている。


432:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 06:00:25.11 ID:4NtVoCAK0

3組のページもカラフルなゴチャゴチャした落書きで飾られていた。
E君には「みんなのE!若い(笑)」と、ふちどられた文字が重なっていた。
そしてC子の下には、あっさりとした文字で

「C子サン、マジメ」

とだけ書いてあった。

ーーC子って変なんだよ。
E君の言葉を聞いた今となっては、にぎやかなページの中で、
そのシンプルな水色の文字が妙に浮いているように見えた。
C子サン、普通は使われない1年の写真、不登校、中絶、違和感。

警察のパトロールのおかげか、その日の夜は何も変なことは起きなかった。


433:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 06:01:27.23 ID:4NtVoCAK0

「いらっしゃい!入ってー」
初めて入ったC子の部屋は、姉の趣味であろうピンクのヒョウ柄のクッションの上に
C子の愛読書だという「アストロ球団愛蔵版」が置いてあったり、
ギャル趣味とサブカル趣味のカオスで
なんだか落ち着きのない部屋というか、ゴチャゴチャしていた。
俺はやはりE君の話が気がかりで、生まれて初めて嗅ぐ
女の子の部屋の匂いを堪能するどころではなかった。
C子が用意してくれたのは、トマトと茄子とベーコンのパスタと小エビの乗ったサラダだった。
一緒に入ったイタ飯屋で、俺がうまいと言って食べたセットメニューに似ていた。
「部屋すごいでしょ。お姉ちゃんと私、全然趣味違うから」
俺の気持ちを見透かしたのか、C子が笑いながら言った。いつもよりはしゃいで見えた。
サラダを口に運びつつ俺はさりげなく切り出してみた。
「あのさ、実はこないだマンションに行ったとき、お姉さんを見かけたんだ」


434:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 06:04:24.15 ID:4NtVoCAK0

C子のフォークがちょっと止まって、それから「ああ」と、あきらめたように笑った。
「うん、メールの時間見て、すれ違ったんじゃないかなって思ってた。
 お姉ちゃんは高校を出てからずっと、夜っていうか風俗の仕事をしてるの。
 最初は本当に、事務員をしてたんだけど。でも、もう二十歳だし…」
「そっか、いや、あんまりC子と似てないなって思っただけだよ」
その頃は、agehaという雑誌もなかったと思うし
夜の仕事とかは今より世間体が悪いというか、地位はかなり低かったと思う。
だからC子が俺に「姉は事務員」と言った理由も理解できた。
キャバクラ嬢かなんか?と聞いたら首を横に振って
「デリヘルって知ってる?」と恥ずかしそうにC子は言ったので
俺は正直びっくりしたが、「お姉さんが何してようと気にしない」と言った。
C子は俺の言葉にぱっと笑顔を見せた。


435:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 06:06:31.81 ID:4NtVoCAK0

食べ終わったらツタヤに行こうよ、と機嫌良くカラカラ笑うC子を見ていると
E君は本当はC子が好きで、ただの嫉妬から
俺にあんな趣味の悪い話をしたのではないかという思いがよぎった。
だとしたら本当に許せないことだ。
俺は腹をくくって、C子に直接「あの話」について確かめてみることに決めた。
「昨日さ、大学でさ、E君って元3組だろ。
 ノート見せてもらったりして、けっこう話したんだ」

C子の顔から笑みが消え、口許が強ばった。

「E君、私のこと言ってたでしょう?」
「…う、うん」
C子がうつむいた。パスタ皿に涙がぽたぽたと落ちた。


436:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 06:07:37.67 ID:4NtVoCAK0

「E君とは、高1のときに、入学してすぐ付き合ってたの。
 でも何か違うなって思って、別れたいって言ったら
 すごく怒って、変な噂を流したり、いやがらせしてくるようになったの。
 クラスの人もみんなE君の味方で、私、学校にも行けなくなって…
 出席日数のことがあって、進める大学は他になくって…」
「C子、おい」
泣き崩れたC子の肩を俺は抱いた。昨日見たアルバムの写真が浮かんだ。
E君の写真は他にもあったのに、C子の写真はあの1年の写真1枚だけだった。
クラス一丸のいじめ。怒りで沸騰しそうな俺の頭にそんな言葉が浮かんだ。


437:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 06:09:11.73 ID:4NtVoCAK0

C子はしばらく俺の胸で泣いていた。時間が経つと俺はちょっと冷静になって
C子の部屋をキョロキョロと見回していた。
「あれ」
カラーボックスの上に置いてある、奇妙なものに目が止まった。
「あっ、あれがC子の言ってたお面か!」
「え?」
泣きながらC子は俺の視線の先を振り返った。
うら若き女性の家に似つかわしくない物がそこにあった。
2つの耳と口がせり出していて、流れるような筆づかいで狐の顔が書いてあるお面だ。
墨は薄くなり、古本のページに出るような
茶色い斑点のようなものが所々あって、年代物のように見えた。

ー「私、向井さんが好きすぎて、狐のお面も持ってるんです!」
向井さん、とは「ナンバーガール」というバンドのボーカルのことだ。
彼はライブなどで、狐面を被って歌っていた。
まだC子と付き合ってなかった頃、部室でC子が先輩とその話をしているのを聞いて、
単純かもしれないがそれがきっかけでC子は、俺の中でちょっと特別な存在になった。


438:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 06:11:18.49 ID:4NtVoCAK0

中坊の頃「ディスコミュニケーション」という漫画が好きで
中華街の土産屋で狐面を買い、それを被っては印相を適当に結んで
キャラに成りきっていた黒歴史のある俺がナンバガにハマらない理由がなく、
またC子のそういうオタク気質なところに親近感を覚えた。
そしてそれがわけもないスピードで彼女への恋心に昇華したというわけだ。
俺は抱き合ったまま、C子にその話をした。
C子は俺の胸に顔を埋めると、涙声で「ふふっ」と笑った。
俺はC子にキスをして、「麺伸びるぞ!」と明るく言ってテーブルに戻り、
C子の食べ残しまで全部たいらげた。
食後、俺の買ってきた不二家のケーキを食べ終わったところで
C子は俺を引き止めたが俺はそれを断り、C子の家を後にした。

俺には行く場所があった。Eのところだ。


439:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 07:00:44.81 ID:4NtVoCAK0

俺は昨日連絡先を交換したばかりのEの電話番号へ何度も発信した。しかし応答はなかった。
しつこく電話をかけてみたところ、出たのはEの母親だった。
何度も着信があったから出た、Eは昨日大学の階段から落ちて入院している。
Eは誰かに押されたと、うわごとのように繰り返していたらしい。
あなたは何か知っているのか。

切羽詰まった様子でEの母親は俺にまくし立てた。


440:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 07:01:52.07 ID:4NtVoCAK0

規制解除間に合ってよかった…。
夜までに書き溜めできたら、また来ます。


442:本当にあった怖い名無し2011/06/09(木) 07:19:24.04 ID:bV7UgUKz0

楽しみにしてるぜ


447:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 19:33:33.54 ID:4NtVoCAK0

病院の白いベッドの中で、Eは憮然とした様子だった。
顔の半分にガーゼが貼ってあって、片目がふさがっていた。
布団から出した両手には包帯が指先までぐるぐる巻きにされていた。
「着地したときに手をついたみたいでさ。まあ、ただの検査入院」
「誰かに押されたって本当か」
「ああ、でも監視カメラから見えない位置だったみたいで、確かめられないんだ」
俺は、Eの胸ぐらを掴んでC子に何をした、と叫び、横っ面を1発殴る予定だったのが
敵の痛々しい姿に戦意を大幅に削がれてしまい
とりあえずEのベッド脇の椅子に腰を下ろした。
何を言えばいいのかわからず、ようやく口から出た言葉はずいぶん情けない調子だった。
「お見舞い用意してないわ…」
Eは吹き出した。
「C子のことで来ただけだろ」
俺は頷いた。
「C子に、E君と会ったって話したんだ」
「それはアチャーだね。C子は何て言ってた?」
C子が先ほど泣きながら語った高校での出来事を俺は伝えた。


448:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 19:35:08.13 ID:4NtVoCAK0

「……そうか。それを聞いて、お前は俺を殴りにでも来たわけか?
 確かに、俺とC子は1年のとき付き合ってたよ。
 C子から俺と別れたいって言ったのも本当。
 俺はそれに対してキレたよ。だって俺はC子を助けたかったから、
 C子の手を放したら、きっともっとC子がめちゃくちゃになると思ったから」
Eの目から、涙が一筋流れた。その様があまりにも悲しそうだったので、
俺はたじろぎつつもEに話の続きを促した。
「助けるって?」
「…C子はマジで変だよ。それしか言えない」
「3組でいじめはあったのか?」
「どうだろう。そもそもC子は学校に来なかったし。まぁみんな避けてたかな。
 高2のときにC子の母親が教室に怒鳴り込んできたんだよ。うちの娘は
 真面目な生徒のはずです、根も葉もない噂を流しているのは誰だ、って」
なるほど、アルバムの「C子サン、マジメ」はそれに対する皮肉だったのか。


449:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 19:36:35.79 ID:4NtVoCAK0

そういえばC子から、姉以外の家族の話をあまり聞いたことがないな、と俺はふと思ったが
Eへの質問を続けた。
「中絶とか、その話は?」
「それは本当だよ。少なくとも2回は病院に俺が付き添ったから。誰の子かは知らない。
 C子はすごく泣いていたけど、結局また同じことをしたんだ。
 その理由がわけわからなくて、それで俺はC子に手をあげた。
 そのときのケンカをクラスの奴が聞いてて、学年中に噂が広まったというわけ」
俺は、何も言えなかった。泣きじゃくるC子の華奢な肩の感触は、俺の手にまだ残っている。
C子を信じたい。Eは俺とC子を引き裂こうとしているだけだ。
自分の手のひらを見たまま動けないでいる俺を、Eは黙って見つめていた。


450:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 19:38:11.68 ID:4NtVoCAK0

「まあ、俺君はC子を信じたいだろうけどね。…あとそれにC子は」
Eは言いかけて、ふと宙を見つめてから次の言葉を飲み込んだ。そして、いきなり明るい調子で言った。
「全部俺君の好きにすればいいよ。俺は忠告はした。でも、
 C子はもしかしたら変わったのかもしれないし。俺君の勝手だもんな。
 ただ俺君が俺に殴りかかったりしないで俺の話を黙って聞いてるってことは
 俺君自身もC子に何か違和感を感じてるんじゃないのかって思うけど。
 まぁ俺はもう、C子には関わりたくないや。疲れたよ」
一気に話し終えたEがふぅ、と深いため息をついて目を閉じたのと
ほぼ同時にEの母親が病室に入ってきた。
俺はEの母親に長居を詫びて、席を立った。


451:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 19:39:20.62 ID:4NtVoCAK0

Eを殴りたいという気持ちは消え失せていたが、Eの言い分をそのまま信じた訳でもなかった。
俺は病室をあとにするとき、Eに犯人を見たかどうか聞いた。
Eは、顔は見てないと首を横に振り、そして眉をしかめながら続けた。

「たぶん女だよ。
 カンカンカン、ってヒールの足音がうるさいなって思ってたら
 ドン、って後ろからぶつかられて、気がついたら体が宙に浮いてたんだ。
 びびって逃げたんだろうな。あーあ。ちくしょう」

アパートに帰ると、俺の部屋のドアの前にはまた石が積んであった。
「なんだよ、くそ!」
俺はその石ころを蹴飛ばした。いくつかが階段に当たって、カーンと大きな音を立てた。
崩れた石の山の中の、あるものに目がいった。
一番下のほうの石に、まだぬるぬると濡れた赤い血のようなものと、
べっとりと数本の髪の毛らしきものが貼付いていた。俺はしゃがみこみ、
恐る恐るその髪の血に汚れていない端をつまんで拾い上げた。
人工的な金色の光を放つそれは、人形の長い毛のようだった。


520:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 22:34:13.36 ID:4NtVoCAK0

「…もう勘弁してくれよ」
俺はその血の付いた金髪を放り捨て、部屋に入ろうとした。
頭上で、アパートの電灯がジジジと音を立てた。
ふと視線を感じて振り返ると、
大家さんが、少し離れた場所に立って俺を見ていた。
「あ、こんばんは…」
さっきの俺の行動がゴミのポイ捨てに見えたのだろうかと思ったが、とりあえず頭を下げた。
「俺君…」
大家さんに、いつもの愛想のいい笑顔はなかった。
「俺君、おかえりなさいね」と言って、軽く俺に頭を下げると家の方向へ戻って行った。
頭が疲れていた。
俺はシャワーを浴びることにした。
夜だというのに、
そういえばまだ全然腹が減ってないのに気付いた。
そうだ、昼飯はC子の部屋に初めて行って、
C子の作ってくれた料理を食べたんだった。
だが、鏡に写る俺の顔は無表情で、ちっとも楽しくなさそうだった。


522:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 22:35:24.91 ID:4NtVoCAK0

「あー、なんだよもう!」
叫びながら、俺はわしわしと乱暴に髪を洗った。そのときだった。
ぎしっ、と、浴室の向こうの部屋で
床が大きく軋む音が響いたのだ。
俺はシャワーを止めて、息をひそめた。

…ぎしっ。

また、同じ音がした。

普段なら、「ボロいアパートだもんな」と気にしなかっただろう。
だが、俺の脳裏には、こんなときに限って
あの朝方の女の笑い声がよみがえってきた。
浴室のドアは閉め切っている。アルミ製の段になった通気口が下部についているだけの
プラスチックのドアなので、外の様子は見えない。


523:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 22:37:44.08 ID:4NtVoCAK0

俺はとりあえずシャワーを再び出して、
ドアノブの簡素な鍵を、音を立てないようにそっと回して閉めた。
そしてドアから目を離さないため、エビ反りのような態勢で髪に付いた泡を流した。
シャンプーが目に入って痛かったが、怖くて目を閉じることが出来なかった。
心臓がバクバクと音を立てているのがわかった。
気のせいだ。きっと気のせいだ。
再び狭い浴室が蒸気で曇っていく。俺はドアの通気口に目をやった。
通気口の隙間からは、グレーのカーペットと、散らかしたスウェットの裾が見えた。
そんないつもの俺の部屋の光景に、音もなく踏み出したのは

ペンキのような毒々しいショッキングピンクに爪を塗った、妙に緑がかった裸足の足だった。

「……!!」
俺は声にならない叫びをあげた。
叫んだつもりだったが、喉が締められたように苦しくて
声が出ていなかった。緑色の足は浴室の前で10本の指を揃えて止まっていた。


524:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 22:39:06.86 ID:4NtVoCAK0

明らかにそれは、俺の部屋にはいるはずもないもの、見たこともないものだった。
浴室は窓もなく逃げ出せる手段はなかった。大声で叫ぶか、壁を叩けば
隣人や大家さんが気付いてくれるだろうか。俺は必死で頭を巡らせた。

ダン!
ドアが叩かれた。まるでドアを殴っているかのような衝撃だ。
ダン!ダン!ドアノブもガチャガチャと回される。
安いプラスチックのドアだ。乱暴に回せば、壊れるのなんか時間の問題だ。
ダン!衝撃のたびにドアがたわむ。
頬に熱いものが流れていった。俺は泣いていた。なんで俺がこんな目に合うんだ。
「誰だ、…誰だああ!」
必死に俺は叫んだ。すると、ドアを叩く音がぴたりと止んだ。
シャワーのお湯が落ちる音だけが響いていた。あとは静寂だった。


「うふふ、俺君、私だよ。C子だよ」


525:本当にあった怖い名無し2011/06/09(木) 22:39:43.76 ID:3WvrPHOf0

つ④


526:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 22:40:22.73 ID:4NtVoCAK0

その声を聞いて俺は、全裸なのも構わず、飛び出すようにドアを開けた。
C子が「わっ、びっくりした」と言いながら、そこに立っていた。
ショッキングピンクに塗った爪の、C子の白いつま先から
にこにことした顔まで、俺は何度も眺め回した。
「…C子?」
「俺君」
C子は、シャワーで濡れたままの俺の体に抱きついてきた。
そして、俺の頭を両手で抱え、呆然とする俺に唇を強く押しつけ、舌を絡めた。
「俺君、私、あなたと子供を作りたいの」
C子は俺の首筋にキスを落とし始めた。俺の頭は状況が飲み込めず混乱していた。
なぜここにC子が?さっきの足は何だ?鍵は?なんでここにC子が?
C子は自分のスカートをまくり上げ、ねっとりとした白い太ももを俺の足に絡め
股間を俺のものへ押しつけた。その太ももの脂肪のひんやりとした感触と、
C子の下着の奥の肉の柔らかさに、俺の理性は弾けとんだ。
俺はC子の体を抱きかかえて押し倒した。
ここ数週間バイトで忙しくて溜まっていたのもあったし、
E君の話や、先ほどの恐怖体験のショックで
俺の頭はなぜか「どうにでもなれ」と繰り返していたのだ。


528:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 22:41:31.64 ID:4NtVoCAK0

C子の白い胸に顔を埋めると、つんとした汗に甘い何かが混じったような匂いがして
俺は獣のようになってC子の体にむしゃぶりついた。
そしてそこからどうなったのかは、正直覚えていない。
ふと気付くと、霞む視界の中で、俺の上でC子らしき女性が腰を振っていた。
「C子…」
朦朧とする頭で、俺はC子の名前をつぶやいた。すると、C子は再び
俺に多いかぶさって、キスをしてきた。俺はされるがままに目を閉じて、C子の舌を味わった。
C子の舌は生き物のように動いて、俺の舌を嬲った。
やがて唇が離れ、目を開いた俺が見たものは

真っ黒い空洞だった。

人間の顔の、目と鼻、口があるはずの場所に、
真っ黒い穴がぽかりと開いている。他には何もなかった。


529:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 22:43:19.48 ID:4NtVoCAK0

俺は反射的に、俺に覆いかぶさっている体の肩を掴んで引き離した。
力を込めて掴んだ肩の肉に、俺の指がずぶりと入り、トマトの皮が剥けるみたいに
皮膚と肉がずるりと裂けて、黄色い脂肪と血の混じったような体液が溢れた。
化け物が両手で俺の顔を掴んだ。眼前に迫る化け物の体と乳房は、
例えるなら治りかけの打ち身のような、黄色いあざに青と赤のうっ血の斑点が浮いている
そんな色をしていた。俺は化け物から必死で体を離そうとしたが、
下半身が重くて体を動かない。
化け物の下腹部に目をやると、化け物の腹の下には互いの陰毛が茂っていて
俺と化け物の体は繋がっていた。俺と化け物の合わせた腹の間から
女の白い指先が這うようにゆっくりと出てきた。
そしてその隙間から、C子によく似た女の目が俺の顔を覘いた。

「うああああああ!!!!!うあああああああ!!!!!」

俺は断末魔のような叫びをあげた。叫ぶことしかできなかった。
意識が遠のいても、ずっと叫んでいたと思う。
次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。


551:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 23:16:21.75 ID:4NtVoCAK0

俺の腕からは管が伸びていて、その管の先には透明な液体の入ったパックが吊ってあった。
「あ、起きた?」
懐かしい声。久しぶりに会う母親だった。ずっと俺の傍らで座っていたらしい。
読んでいた文庫本を俺の体の上にばさりと置くと、窓際に立ちカーテンを勢い良く開けた。
まぶしいオレンジ色の夕焼けが、部屋を照らした。あんた丸1日寝てたのよ。母が言った。
「点滴はただのブドウ糖。あんた、家に全然連絡入れないと思ったら、
 バイトばっかりしてたんだって?倒れるまでバイトなんて…
 本当にバカなんだから。仕送り充分あげてるでしょ?」
「…うん」
どうやら俺は、部屋で全裸で倒れているところを大家さんに発見され、救急車で運ばれたらしい。
普段何を食べているのかとか、学校にはちゃんと行っているのとか、
いつもの調子でガミガミと言われて、情けなくなった俺は
点滴の繋がった片腕だけ出したまま布団をかぶった。
母親は気にせず、また俺の隣に腰を下ろして続けた。
「ねえ、あんたさ、大学から遠いかもしれないけど、やっぱり家に帰ってきなさい」


553:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 23:17:28.68 ID:4NtVoCAK0

「え…」
俺が布団をさげて、母親を見上げた。
その表情は優しくて、そしてすごく真剣な目で俺を見ていた。
「あんた、疲れてるのよ。今回のこともそう。
 大家さんにも最近のあんたのこと聞いたわ。お母さん、心配になっちゃった。
 ね、帰ってきなさい」
母親が俺の髪を撫でて繰り返した。俺の目から涙がこみ上げた。
「…うん」
日常に戻りたい。俺が過ごしてきた日常に戻りたい。そう思った。
倒れる前の数日間の出来事は、母の顔を見ているとすべて夢だったのではないかと
そんな気がしていた。
母親が微笑んだ。

「C子ちゃんも、あんたのこと許してくれるって言ってるからね」

「…は?」


566:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 23:27:50.40 ID:4NtVoCAK0

>>553
>俺が布団をさげて、母親を見上げた。
俺は の間違い。でもそもそも布団をさげて、って日本語が変かも失礼


555:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 23:20:49.08 ID:4NtVoCAK0

母親の持ってきた服に着替え、制止する母の声も聞かず
俺はC子のマンションへ走っていた。
ずっと寝ていたので、体中の関節が痛かったが
俺はとにかく走っていた。
喉の奥がグルグルとうなり声を自然とあげていた。
携帯が手元にないのでC子に連絡する手段はなかったが
C子はマンションにいるはずだと、そう思った。

俺の叫び声を聞いて不審に思ったアパートの住人が
大家さんを連れて俺の部屋のドアを叩いたところ、
乱れた衣服のままのC子が、大家さんに泣きついたという。
「言い争いしていたら、俺君が逆上して、叫びながら襲いかかってきて」
C子はその前にも、俺が大家さんと行った交番にも行き
「下着を返してください」
泣きながら警官に頼んだという。
俺がC子の汚れた下着を盗んで、自作自演で騒ぎを起こしたのだと
大家さんは母親に説明したそうだ。


557:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/09(木) 23:21:53.36 ID:4NtVoCAK0

区切りがいいところなので、今日の投下はここまでにします。
おつきあいありがとうございました。


559:本当にあった怖い名無し2011/06/09(木) 23:22:29.27 ID:WvnUzU630

>>557
残念
しかし乙


573:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 04:37:25.88 ID:er4H0hUP0

おはようございます、朝の投下します 四円の人いつもありがとう


574:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 04:38:44.99 ID:er4H0hUP0

休日の繁華街は多くの人で賑わって、通り過ぎる人たちは
みんな楽しそうに見えた。C子のマンションは、
そんな人ごみをかき分けて走って行った先にある。
C子の部屋の玄関チャイムを押しながら俺は叫んだ。
「C子、俺だ。開けてくれ」
ガチャリと鍵を開ける音がして、
ドアを開けて俺を迎えたのは、金髪に近い髪をまとめた、
挑戦的な瞳と、突き出した唇の派手な女。ピンク色のプーマのジャージ上下を着ていた。
C子の姉だった。
「入りなよ」
C子の姉は突き刺さるような長い睫毛の目で俺を一瞥すると、
あごをしゃくって、つっけんどんに言った。

「ビールでいい?」
冷蔵庫から缶ビールを取り出し、C子の姉は足で冷蔵庫を閉めた。
「いいです、C子はどこですか」
C子の姉は、とりあえず床に座っていた俺の前に自分も腰を下ろし、
あぐらをかいた。足にはC子と同じ色のペディキュアが塗ってあった。
そして俺の目の前にも缶ビールを乱暴に置いた。
「C子なら今日は実家に帰ってるよ」
姉はそう言うとプルタブを開け、ズルズルとビールをすすった。


575:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 04:42:09.72 ID:er4H0hUP0

「…そう、ですか。じゃあ俺はこれで」
「待ちなよ。C子がなんかやったんでしょ。C子のことは、私が謝るよ」
ビールの缶から口を離さず、ちっとも悪びれない様子でC子の姉は言った。
バサバサと音がしそうな太く長い睫毛を瞬きさせる。
「ねえ、待ってよ。C子は、オニーサンのこと、すごく好きだよ。
 ただ、あの子はかわいそうな子なの。
 C子が妊娠と中絶を繰り返したのは、あたしのためなの。
 そしてC子がおかしくなったのは、あたしのせい」
「…どういうことですか」
立ち上がろうとしていた俺を、姉は手をヒラヒラ上下に振って座れと制した。
俺は再び腰を下ろした。
「もうない」呟くと、C子の姉は空になったビール缶を脇に置き
あぐらをかいたままユラユラ体を揺らして、それから自分の腹を両手で押さえて言った。
「すっごくちっちゃいときにね、激しい姉妹けんかをしてさ。
 C子が私のお腹を思い切り蹴ったの。
 蹴ったっていうか、テーブルかなにかに上って、寝ていたあたしのお腹に落ちたんだよね。
 子供の体重でも、打ち所が悪かったみたいで。あたしは病院行き。
 あたしの体はもう、命を作ることができなくなった」
姉は、俺の目の前にあるビールを体を伸ばして取ると、
タブを開けて喉を鳴らして飲んだ。喉が上下に動いた。ぷはー、と息をついて続けた。


576:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 04:46:33.97 ID:er4H0hUP0

「C子が高校に入った頃、すごくいい彼氏が出来たってはしゃいでてさ。
 あたしはそんとき、むしゃくしゃしちゃって。こうやってC子は幸せになるんだなって
 C子に夢見る前に夢を奪われたあたしはどうなるの?って思ったら、悔しくて。
 したらね、はしゃいでるC子に、お姉ちゃんもうすぐ誕生日だね。何が欲しい?って聞かれたの。

 あたしは、子供を作りたいって答えた。」

C子は元々、真面目過ぎる程に真面目な女の子だった。幼心に、自分が姉にしたことを
よく覚えていたから、誰に対してもびくついていたが、優しい子に育った。
だが姉の一言がきっかけでC子の精神はおかしくなっていった。
C子は「子供を姉にプレゼントしたい」という一心で、手当たり次第に出会った男性と寝た。


577:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 04:49:24.10 ID:er4H0hUP0

当時の恋人ーーEは、C子の誘いには乗らず、C子を何度も説得した。
C子の妊娠がわかったとき、2人の交際を知っていた母親はEを疑った。
「E君に無理矢理レイプされた」とC子は母に言った。それが担任の耳に入ったとき、
偶然、上級生の男子生徒がラブホテル街でケンカをして補導された。
そのとき一緒にいたのはC子だった。Eの疑いは晴れたが、C子とEは別れ、
C子はますます自分を傷つけるかのように、男の欲望の前に体を投げ出した。
母親はC子を部屋に閉じ込めたが、
姉はC子がすることをわかっていながら、C子の部屋の鍵を開けた。
C子が妊娠するたび、母親が堕ろしたくないと泣き叫ぶC子の腕を掴んで
病院へ引きずって行った。
「C子は真面目ないい子。私のC子はいい子」
姉が最後に見たC子の母親は、繰り返しそう呟いていたそうだ。
母親はC子が高2の秋に首を吊って自殺した。
そして、度重なる中絶で、C子のまだ未成熟だった体には大きな負担がかかっていた。


578:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 04:50:54.77 ID:er4H0hUP0

C子には生理が来なくなった。大学に入ってからも、月のものはなかった。
そんなある日、トイレに入っていたC子が、「お姉ちゃん!」と叫びバタバタと出てきて
姉に、血液の付着した下着を、目を輝かせて広げて見せた。
「私、また赤ちゃん産める体になったみたい!俺君と出会ったからだと思うの!」
俺と付き合うようになってから、C子は姉にこう言っていたそうだ。
「こんなにだめな私なのに、俺君はすごく大事にしてくれるの。
 エッチも全然迫ってこないし。私、E君のことがあってから、
 真剣に私を好きになってくれる人って、もう現れないと思ってたの。
 だから俺君と出会えて、すごく嬉しい。絶対嫌われたくない。絶対。
 絶対。絶対。絶対。絶対」

「俺には、重いです」
ここまで聞いての正直な気持ちを言って俺は姉に頭を下げた。


579:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 04:55:02.48 ID:er4H0hUP0

姉は、そうだよね、と寂しそうに笑った。俺は「すみません」と繰り返した。
何がすまないのか、よくわかっていなかったが頭を下げた。
C子を助けられなくてすみません、C子を手放してすみません、だろうか。
俺はC子のマンションを後にした。もう2度と訪れることもないだろう。
繁華街を、何度も人にぶつかりそうになりながら
フラフラとした足取りでようやく抜けて、駅に向かった。
たぶん、全部、嫌な夢だったんだ。C子はおかしい。異常だ。そう思った。
アパートに着いて携帯を見ると、母親からの着信で埋め尽くされていた。
折り返してみると、1コールですぐ母が出た。
母は病院を飛び出した俺をさんざん叱ったが、すぐに帰って来いと言った。
「うん、教科書とか必要なものだけとりあえず持って、電車もまだ間に合うし、
 家に帰るよ。引っ越しは…大家さんもそれがいいって?そっか。じゃあまたあとで」
母親との電話を切り、俺は荷物をまとめてアパートを出た。
アパートの影から、誰かに見られているような気配がしたが、
俺にはもう振り返る元気もなかった、


580:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 04:58:26.87 ID:er4H0hUP0

それから数日は平穏だった。
アパートは引き払うことに母が決めて、
出張中の父が戻ってきたら、父の車を使って
まとめて引っ越ししようという話になった。
バイトは、遠くなるからやめるという連絡をした。
4月から1人で築いたものが、全部ほぐれて無くなっていく。
今までより2時間も家を早く出て、大学に行く生活が始まった。
講義を聞いて、また電車に乗って家へ帰る。それだけの生活。
サークルには何となく顔を出せないでいた。
C子の姿を大学で見かけることはなかった。

そんなある朝のことだった。ただでさえ友達の少ない俺の、
しばらく鳴っていなかった携帯のバイブが鳴った。
090で始まるが、知らない番号からだった。
「はい」
「俺君?C子だよ。今駅に向かって歩いてるところ。
 37分発の電車に乗れそう。俺君は今日来るの?」


581:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 05:04:46.13 ID:er4H0hUP0

俺は息を飲んだ。こめかみのあたりに、脂汗が滲んだ。
電話の向こうで、明るい声が不思議そうに俺の名を呼び続ける。
「俺君?俺君?俺君?」
俺は声を振り絞って言った。
「しばらく、電話とかやめてくれ。会いたくないんだ」
死刑執行のボタンを押すような気持ちで、通話終了のキーを押した。
いつもジーンズに入れている携帯を、バッグに放り込んだ。
その日も学校にC子は来ていなかった。

夜。俺は部屋で漫画を読んでいた。バッグの中から、ヴーヴーと
くぐもった音が聞こえた。今度は別の知らない番号から電話がかかってきていた。
恐る恐る俺は携帯を耳に当てた。

「俺君、あたし。C子の姉なんだけど。今日ね、C子が自殺未遂したの。
 今は家に戻ってきてるから、会ってくれない?お願い」


582:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 05:07:22.09 ID:er4H0hUP0

「入って」
数日ぶりに見るC子の姉は、いつものように派手な化粧をしていたが
前会ったときより心なしか少しやつれて見えた。
姉は電気を消してある奥の部屋のドアをうすく開き、
唇に人差し指を当てながら声を落として言った。
「C子、さっき寝ついたとこなんだ。ずっと俺君の名前を呼んで暴れてて…。
 わざわざ来てもらったのに、悪いね」
「…いえ、いいんです」
お茶を入れてくれるというので、俺は素直にダイニングテーブルの椅子に座った。
緑茶の入った、ベージュとピンクの水玉のマグカップが置かれた。
これはたぶんC子の物だ。
姉が時計を見て、立ち上がった。
「腹へってない?コンビニで夜食買ってきたんだ。
 せっかくここまで来てもらったし、ごちそうするよ」
買い置きのコンビニ飯にごちそうも何もないだろうと思ったが、
急いで来たせいで腹も少し減っていたので、俺は「食べます」と言った。


583:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 05:08:48.74 ID:er4H0hUP0

姉は冷蔵庫から、セブンの冷やしラーメンととろろ蕎麦を出して
テーブルに置いた。そして俺の前にとろろ蕎麦をずいと押して言った。

「俺君、とろろ蕎麦大好きだもんね」

俺は立ち上がり、C子の姉の髪を掴んだ。不意を突かれた姉は
俺を振りほどこうと一瞬腕をばたつかせて藻掻いたが
髪を留めていたピンはあっけなく外れ、
金色の髪がばさりと床に落ち、広がった。

俺の目の前にいるのは、
顔の造作がわからなくなるくらいの派手な化粧をしているが

まぎれもなく、C子だった。


584:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 05:10:20.21 ID:er4H0hUP0

「C子…なんでこんなことを」

呆気に取られる俺を、ギラギラとした化粧を施した目で睨みつけ、
C子はテーブルに置いてあったナプキン入れの陶器を
俺の頭めがけて思い切り振り下ろした。
変な白鳥と花の絵が書いてある、ババくさいデザインの陶器だ。
初めてC子の部屋に入ったときから、ババくさいと気になっていた。
そんなことを冷静に考えていたはずだったが、
フローリングの床に打ち付けられた頬に、摩擦の熱い痛みが走った。

俺の意識はそこでブラックアウトした。


585:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 05:11:54.38 ID:er4H0hUP0

区切りがいいので朝はここまでにします。
霊感持ちの友人Aを活躍させるところまで投下しないと
テンプレどころか本当にスレチで終わってしまうので、
もう少しだけおつきあいください。


586:本当にあった怖い名無し2011/06/10(金) 07:56:37.35 ID:OAIF6JG70

朝から乙。
荒らしが常駐してるから変なのは気にするな。


587:本当にあった怖い名無し2011/06/10(金) 08:29:15.30 ID:ufV5spBr0

Aの友人、おつ。
たのしみにしてますよー。


588:本当にあった怖い名無し2011/06/10(金) 08:47:14.82 ID:OqV7IlwA0

そうだね
いまんところメンヘラ臭しかしないから
Aの活躍に期待するよ



590:本当にあった怖い名無し2011/06/10(金) 11:11:53.10 ID:7e42IFHMi

面白い。
これからのオカルト絡みな展開に期待。


597:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 19:21:40.27 ID:er4H0hUP0

それに、自分の書き込みをざっと流し読みながら帰ってきたんだけど
(確かに細切れててよみづらいのに読んでくれてる人ありがとう)

体験をはしょらず細かく細かく思い出しながらゆっくり書くことで、
Aが抑えてくれた「C子の念」というものが、俺を通して、
また違う形で生まれ直して、この場所から滲み出てる気がする。
ネットってのはそれが不特定多数の人に簡単に拡散できちゃうから怖いね。
体験談をネットで発表したって言ったらAはめちゃくちゃ怒ると思う。
俺もなんで今書こうと思ったんだろう?何かあるのかな。なんか寒気してきた。
馴れ合いどころか、ある意味無差別テロみたいなものだよな。

今すぐ出かけなきゃいけないんで、夜のぶんは11時くらいに
まとめて投下になりそうです。取り急ぎ。ではまたのちほど。


623:本当にあった怖い名無し2011/06/10(金) 20:51:18.76 ID:xQYjT//VP

>>597
んじゃその時間に覗いてみようかな
こんな自分でも支援要員にはなれるかも
クライマックス楽しみ


598:本当にあった怖い名無し2011/06/10(金) 19:31:35.28 ID:gWH1y1bBO

まだ話が途中なのに後日談みたいに語り出すのは何故なのか


599:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 19:34:59.28 ID:er4H0hUP0

昨日の晩あたりから本当にちょっとおかしいんだ。
後日っていうか今リアルタイムで感じてる話。
感応しやすい人が何も無きゃいいんだけど。では家を出ますノシ


625:本当にあった怖い名無し2011/06/10(金) 21:21:22.31 ID:7e42IFHMi

>>599
11時楽しみにしてるよ


630:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 23:11:33.22 ID:er4H0hUP0

夜のぶん投下します。
今夜は応援が来てくれたから実況スレには行かなくて済むかも。
さっきビビって変なこと書いて、すいません。


631:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 23:13:00.63 ID:er4H0hUP0

気がつくと俺は床にあおむけで寝ていた。
「…っ」
体を起こそうとした途端、前頭部がズキズキと痛んだ。
触ってみると、額の生え際のあたりが腫れてタンコブになっている。
意識を失う前の直前の記憶。C子に殴られた瞬間を鮮明に思い出した。
幸い出血は無かったようだが、頭なんて殴られたら
命が危ない場所だ。ドラマなんかでも灰皿を凶器にして
殺人をしたりしているのだから本当に生きててよかった。そう思うと同時に、
何の躊躇もなく鈍器を俺の頭に振り下ろしたC子を
恐ろしく思った。実際にC子は俺を殺してもいいと思っているんだろう。
C子は頭がおかしい。ぞわりと、床につけたままの背中の肌が泡立った。
俺はまだC子の部屋にいるようだった。逃げよう。頭が痛むが、体を起こした。
「俺君おはよう」
俺の背後にあったダイニングチェアーに、
先ほどの金髪のカツラを落としたときの格好のままでC子が座っていた。
椅子から伸ばした足をぶらぶらとさせ、カップアイスを手に持ち
木製のスプーンを舐めながら俺を見下ろしていた。
カツラが無い以外は化粧もジャージも「C子の姉」のままだが、
その声も表情もC子でしかなかった。これならカツラを被っていても、
俺だってすぐC子の姉の正体を見破ることが出来たはずだ。


632:本当にあった怖い名無し2011/06/10(金) 23:14:35.01 ID:xQYjT//VP




633:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 23:15:16.62 ID:er4H0hUP0

「C子」
「えへー、まだ夜だよぉ」
俺を遮るようにC子が言った。
「…C子、マジで頭が痛いんだ。病院に行っていいか」
「……」C子はスプーンをまた口にくわえた。
「わかった、自分で救急車を呼ぶ…」
俺は体をねじり、尻ポケットにあるはずの携帯に手を伸ばした。
しかしポケットには何もなかった。
「かわいそぅ」
C子が俺の傍らへしゃがみこみ、
持っていたアイスを俺の額につけた。鈍い痛みが脳に走る。
俺はC子を払いのけて、勢い良く立ち上がった。C子の手からはアイスが飛び、
C子の体がごろんと壁にぶつかった。頭がくらくらとして、少し吐き気がしたが、
C子が壁際に転がっているのを確認して、とにかく一刻も早く部屋を出ることにした。
勢い良く立ったせいか、怪我のせいか目が回ってしまったので、
壁に手をつきながら、玄関へノロノロと向かった。
するとC子が俺の背後から叫んだ。
「俺君、待って。助けて。おねがい」
振り向くと、顔を歪ませてマスカラが溶けて黒い涙を流したC子が
しゃくりあげながら、床を這いつくばっていた。


634:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 23:17:12.00 ID:er4H0hUP0

「俺君にひどいことしたのは私じゃないの。
 俺君を好きなC子は、今ここにいるC子だよ。私を見て。助けて俺君」

当時は「メンヘラ」っていう言葉もメジャーではなかった気がするので
俺はC子は二重人格なのではないかと思った。だが、俺はC子から目をそらし
鎖型のドアチェーンに手をかけ、外に出ようとした。
「俺くぅううん!!」
ガッ!と両足を掴まれた。
俺の右足に、真っ黒い涙を流したC子がへばりついて、両手で抱え込んでいる。

…両足?
俺は左足を見た。

うっ血した斑点だらけの皮膚をした、頭のでかい赤ん坊のような…
四つ足の何かが俺の足を掴んでいた。そしてゆっくりその顔をあげようとした。
「ひっ」


635:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 23:19:13.14 ID:er4H0hUP0

俺は目をそらして、ドアに向き直った。そして目を何度も何度もしばたかせた。
見間違いだと思ったのだ。
だって俺は起きてるし、これは現実だし、こんなもの見たことがないし。
玄関はサーモンピンクのペンキが塗られた鉄製のドアで、靴箱の上には消臭剤が置いてあって
そこにはプラスチックの靴べらがかけてあって、茶色の玄関タイル、女性ものの靴が並んでる。
鎖のチェーン。1回下までさげて外すやつ。普通の光景じゃないか。全然普通じゃないか。
手がガタガタ震えだした。俺はドアチェーンの小さな金具を持ち、下へさげようとした。
その腕をC子が掴んだ。
「俺君、私じゃないの。私を助けて」
C子の顔がすぐ隣に迫っていた。溶けた化粧でドロドロに汚れた無表情のC子の顔は、
左目のつけまつげが斜めになって、眼球に入り込んでいたが瞬きもせず俺を見ていた。
ぐぐっ。俺のTシャツが左下へ引っ張られて伸びた。
肉付きのよい、小さな丸い拳が俺のTシャツを握っていた。
そしてその手は、俺の脇腹を痛いくらいの力で掴んで、ゆっくり這い上がってくる。


636:本当にあった怖い名無し2011/06/10(金) 23:19:49.46 ID:xQYjT//VP

c炎


637:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 23:20:31.45 ID:er4H0hUP0

俺はとうとうそいつの顔を見てしまった。
ぶよぶよとした肉づきのいい顔の真ん中に、黒くて、乾いた穴がぽっかりと開いていた。

あたしを産んで

C子の声なのか、誰の声なのかわからないが頭にその言葉が響いた。
「あっ、あ、あ」俺は泣いていた。膝の関節が震えのせいで、何度もずれて、
俺の体はカクカクと上下に動いていた。


639:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 23:25:46.24 ID:er4H0hUP0

そいつの顔に開いた大きな穴から、
どす黒くて、とろりとした血が糸を引きながら溢れ始めた。
粘性のある血は俺のジーンズの布を滑り、じっとりと染み込んで行く。
俺の脇腹を掴む小さな手は、どんどんどんどん、力を込めていき、
腹の肉がちぎられるんじゃないかと思うくらいの痛みが余計に俺を焦らせた。
「た、助けて。たすけて」
俺は震えながらも鉄の冷たいドアに必死でへばりつき、
C子に掴まれた腕を必死で伸ばしてやっとの思いでチェーンを外した。
ドアの鍵を開け、倒れ込むようにして外に飛び出した。

腰が抜けて立てなかったので四つん這いになって、廊下をひたすら、エレベーターのほうへ進んだ。
「あああ、あああ、あああ」
誰かに気付いてほしくてなのか、頭が混乱しているせいなのか、とにかく俺は呻きながら
必死に手を動かして、ほふく前進のようにして重い体を引き摺った。
ジーンズの尻ポケットで、携帯のバイブが鳴った。そうだ!携帯があったんだ。


650:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 23:38:25.56 ID:er4H0hUP0

俺は携帯を取り出して、通話相手も確認せず耳にあてた。

「おーい、いま大丈夫?」
聞こえて来たのは、Aの声だった。

「A、助けてくれ、A!!」俺は叫んだ。
「うん、やっぱり大丈夫じゃないよなあ。お前今どこにいるんだ」
「○○にある、C子のマンション…
 C子っていうのは、俺の彼女で…おかしいんだ。殺される」
「よぉし、落ち着け」
「A、助けてくれ、たすけて」
俺はしゃくりあげて過呼吸になりつつも、友達の名前を繰り返した。
涙で携帯がびしょぬれになり、熱を持った液晶画面で火傷しそうな程だった。
だがAは落ち着いた声で、俺を諭すようにのんびり言った。

「いいかぁー、これは現実じゃない。現実じゃないんだ」


653:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/10(金) 23:40:08.00 ID:er4H0hUP0

…は?

「…なんだよ、だったらいいって俺だって思ってるよ!
 でも実際、死にかけてるんだ!!」
頭にカッと血が上って俺は叫んだ。Aは俺が何か冗談を言っていると勘違いしたんだ。
今這いつくばっている廊下のコンクリートの冷たさや、たまに腕に当たる小石の痛み、
C子の部屋の恐ろしい化け物。信じたくないけど、全部現実だ。
「わかったよ。今行くから、ちょっと待ってろ」
「A!おい…」
Aは通話を切った。俺は携帯をまたポケットに突っ込み、
這いずってエレベーターの前に辿り着いた。
エレベーターは来ていない。必死で体を伸ばして、ボタンを押した。
ウィーン、とエレベーターが動き出す機械音がした。
助かるんだ。そう思った。


684:本当にあった怖い名無し2011/06/11(土) 01:25:31.54 ID:enx5N1Ou0

Aの友人乙
次も楽しみだ


685:本当にあった怖い名無し2011/06/11(土) 01:48:03.58 ID:1iHqnWfN0

A友乙!
保存してるから流れても安心ね


686:本当にあった怖い名無し2011/06/11(土) 04:16:45.80 ID:x+9fVVaJ0

やっとAが来たな!
続き楽しみに待ってるよ


691:本当にあった怖い名無し2011/06/11(土) 08:55:11.81 ID:P3+KaNBwP

一応通報した
自重してくれてる人多かったんでまとめやすかったよ

しかしポケットに携帯入ってなかったり入ってたりしてるのは伏線?


6: 忍法帖【Lv=4,xxxP】 2011/06/13(月) 00:39:05.65 ID:9hcNUkid0

Aの友人来ないの?
続きが気になるんだぜ…


9:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 06:47:42.53 ID:th0ZeXZU0

大変遅れてすみません、最近夢見悪くて
ちゃんと寝れてなかったせいか、持病の扁桃腺が腫れてしまって
病院で点滴打ってました。とりあえず家を出るまで続き投下しますね。

前スレ>>691
そこは続きを読んでのお楽しみだったのですが
そういう突っ込みあると、しっかり読んでもらってるんだなと嬉しいです。

自分はこれが突っ込まれるんじゃないかと
ヒヤヒヤしてました 前スレ >>635
>鎖のチェーン
投稿前に気付いて「銀のドアチェーン」って修正したつもりだったのに
長嶋茂雄になってました。


39:本当にあった怖い名無し2011/06/13(月) 19:47:03.11 ID:lqant3LfP

Aの友人乙
お話はおわり、で終わるけど
現実はこれからも続いていくんだもんな
その出来事含めて今のお前さんがあるわけだから
その、なんだ、今度は間違えるなよ
嫁さんと子供大事にな

>>9
>鎖のチェーン
脳内変換でドアチェーンになってたよ
おや、と思ったのは「1回下までさげて外すやつ」かな
うちのは一番上に上げないと外れないタイプだし
横にスライドするタイプもあるからどんな奴だろ、と思ってた

その後Eと話したことある?


40:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 19:55:15.20 ID:th0ZeXZU0

>>39
ごめんドアチェーン、俺んちは実家も横にスライドする太いパイプみたいなやつで
鎖のドアチェーンいじったのってC子の部屋が最初で最後なんだ。
たぶん記憶が改ざんされてるかも。物理的に考えて、上だね。

補足。
Aのばあさんは地元では有名なババアで
幽霊を見たりするよりは病気を治したりとか、主にそういうことをしている。
俺も何度か世話になった。Aの能力もそんなかんじなんだと思う
Aはあのあと「俺の魅力は日本人女性にはわからないんだ」とか言って留学した。
でも俺に災難が降りかかってくるたび、Aがあのときみたいに
物凄くリアルな夢?(やっぱり念気?)の中に出て来て色々助けてくれた。
社会人になったAは今はとある大変そうな国に駐在してる。
フェイクを混ぜたりC子関係の登場人物を減らしたり
あんまり重要じゃないエピを削って脚色したから半端になった部分もあるけど、
一応実際にあった話です。
確かではないから書かなかったけど、部室で会ったサークルの先輩が
C子の噂を聞きつけて、C子を脅そうとしたことがあるという
話とか、あのあとも色々聞いたんだけど省略しました。
Eは高校の同窓会で会ったよ。母校で先生やってる。
たまにC子の話を出して生徒に説教するくらい、立ち直ってる。
なんかこのスレになってから、レベルあがったのかわからないけど
長文書き込めてすごく助かった。支援してくれた人もありがとう。


45:本当にあった怖い名無し2011/06/13(月) 21:01:55.95 ID:lqant3LfP

.>>40
細かいことに答えてくれてありがとな
読んでてなんだかAのおばあちゃんって沖縄のユタさんみたいだと思った
Eもしっかり立ち直ってて良かったよ
彼も彼女(C子)の重さを背負ってんだ
お前さんは一人じゃないよ


10:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 06:48:49.61 ID:th0ZeXZU0

閉じたエレベーターの扉に背をもたれ、両足を投げ出し
俺はエレベーターが上ってくるのを待った。
マンションの廊下は、C子の部屋の前を含めてしんと静まり返っていて、
シャフトを上昇するエレベーターの無機質なモーター音と
俺の息づかいだけが響いていた。俺の悲鳴で誰か
顔を出してくれてもいいくらいだが、他の住人の気配は全く感じられなかった。
それにしてもエレベーター遅くないか…。
不審に思い始めたとき、ちょうどよくモーター音が止まり、
エレベーター内部の蛍光灯の光が暗い廊下に落ちた。
待てよ。
C子が俺を追ってきていないのが、今になって急に気になりだした。
心臓がドクン、と大きく脈打った。後ろを振り返ったらいる、なんて
そんな映画みたいなことが起きないよな普通。
俺は半分絶望した気持ちでエレベーターを振り返った。
「おう」
「A!?」


11:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 06:50:15.66 ID:th0ZeXZU0

くすんだミカン色のタンクトップと短パンから筋肉質の手足を晒し、
右手にはいつも鞄代わりのD丸デパートの紙袋を提げている、趣味の悪い大男。
制服でないこと以外は高校時代と全く変わらない、
数ヶ月ぶりに会うAがそこにいた。Aはにっ、と歯を見せて
俺に笑いかけると、俺の腕を掴んで無理矢理立たせた。
Aに立たせてもらっただけなのに、さっきまで砕けていた腰に
針金が通ったように背筋が伸び、膝が笑っていた2本の足はしっかりと地を踏みしめた。
「しっかりしろな。さあー、助けに行くぞ」
Aはぱん、と俺の肩を叩き、エレベーターに乗り込むどころか、
C子の部屋へ向かって、俺の手を引っ張ったまま仄暗い廊下を歩き出した。
「助けるって!?」
「C子ちゃんだよ」
俺はAが何を言ってるのかわからなかった。
こいつは俺を助けに来てくれたんじゃないのか?
考えている間も、Aは俺を引っ張ってずんずんと大股で廊下を進む。
「ま、待てよ、せめて警察を呼んでからにしよう」
Aの手をふりほどいて、俺は尻ポケットの携帯に手を伸ばした。
しかし、俺の手は虚空を掴んだだけだった。さっきAから電話が来たのに。
いや、その前に、俺は携帯を持っていたか…?俺は思わずAの顔をまじまじと見た。
Aは俺の視線に気付いたようだが何も言わず、C子の部屋のドアノブに手をかけた。
ドアノブを引くと、ドアとドア枠の隙間から黒い血が糸を引き、
糸の上に小さな血の玉が出来ては、それがぽたりぽたりと落ちて行く。


12:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 06:51:33.04 ID:th0ZeXZU0

「うわっ…!」
思わず俺は後ずさりした。Aは構わずドアを全開にして血の糸を切ると
C子の部屋に入り、玄関の電気のスイッチをパチパチと押した。
「電気つかねーなあ」
俺は先ほどのC子と化け物がまた出てくるのではないかと、
情けないがAの背中からそろそろと部屋を見渡した。
真っ暗な部屋は不気味な程静まり返っている。
Aはサンダルを脱ぎ、持っていた紙袋から白い靴下を取り出して履いた。
人の家にあがるとき裸足はちょっとね、と
こちらが聞いていないのに説明してから、Aは厚い胸板いっぱいに
息を吸い込んで声を張り上げた。
「おーいC子ちゃん、俺の名前はAだ。助けに来たんだ。おじゃましますよー」
闇からの応答はない。俺はAに耳打ちした。
「なあA、C子は何か変な悪霊みたいなものに取り憑かれてると思うんだ」
「チッ、幽霊なんていねーよ。なんで今怖い話するかな」
Aは俺に舌打ちした。


13:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 06:52:42.94 ID:th0ZeXZU0

「女の子の部屋はやっぱ匂いがいいよな」とAはC子の部屋に足を踏み出した。
俺には、冷えた空気の中にツンと鉄くさいような生臭いような匂いしか感じられない。
そもそもそんな軽口など叩ける余裕があるはずもない。
俺たちが1歩踏み出すたびに、居間に続くフローリングの廊下が
みしっ、みしっ、と軋んだ音を立てた。
そして廊下の奥の暗闇の中で、きらりと何かが光るものが見えた瞬間、
目をぎらつかせた全裸のC子がAに掴みかかった。AはC子を受け流し、身をかわした。
C子の股の間からは、赤黒い血の混じった粘液にまみれた、
ロープ状の動物の内臓のようなものが垂れ下がって床にまで伸びていた。
そのロープは何やらふらふらと小刻みに揺れている。つい視線を落とすと。

ずり、ずり、ずり、ずり

床を這う小さな丸い手。C子の両足の向こう側から、先ほどの緑色の赤ん坊が、
四つん這いでこちらへ近づいて来た。
「う、うぇぇっ」俺は我慢できず、胃の奥からこみ上げてきたものをびしゃりと床に吐いた。
壁に手をついた瞬間、居間の電気のスイッチが入って、蛍光灯の光がC子の姿をありのまま照らした。
何故、好きだった女の子の、こんなおぞましい姿を見なくてはならないのか。
私、屋久島に行ってみたいなー。写真集を見ながら頬杖をついて
夢を語ってくれるような、俺にとってはC子はそんな普通の女の子だったのに。


14:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 06:54:32.33 ID:th0ZeXZU0

…ゔゔゔゔ産まれたああいぃいよおおおおおお…

C子は喉のつぶれた老婆のような掠れた叫び声をあげ、
ヨタヨタとAに近づくとAの顔に両手を伸ばした。
「フン!」
AがC子にそのまま腰を入れた頭突きをした。
ガッ、と乾いた音がして、C子はそのまま後ろへ倒れ込んだ。
俺はAの行動に正直面食らった。だって頭突きって。
間髪入れずに、Aは床にいた緑色の赤ん坊に飛びかかり、押さえこんだ。
そして俺に向かって、切羽詰まった形相で叫んだ。
「俺のバッグの中からハサミを出すんだ!早く!」
Aの額には異常な程大量の汗が噴き出していた。俺は廊下に落ちていたAの紙袋を
慌てて拾った。台所用ばさみのような、大きなハサミだけが1つ入っていた。
Aにそれを渡すと、Aは刃を閉じたまま、
赤ん坊とC子を結ぶ赤い肉のロープに突き立てた。その瞬間、倒れていたC子の体が
びくんびくんと痙攣した。それと同時に、伏せていた赤ん坊の首がぐるんと回転して
顔に開いた黒い穴が突然風船のように膨み、
人のような顔が浮かびあがって、口を開けて叫んだ。
叫んだといっても、声ではなく地鳴りのような音が響き、部屋がミシミシと軋んだ。
俺は反射的に耳を塞いだ。
顔は苦悶と憎悪に満ちた目をじろりと俺たちに向けると、
Aに向かって勢いよく、ねばねばした血を吐いた。
「A!!」
血を浴びたAは、それには全く動じず赤ん坊の胸ぐらを掴んだ。
化け物の顔を自分の顔に引き寄せ、静かに言った。
「お前は誰だ」


15:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 06:56:51.80 ID:th0ZeXZU0

Aはもう1度繰り返した。
「お前は」
「「C子の体は私の!私が産まれるのぉおお!!」」
倒れていたはずのC子がバネのように上半身を起こして、化け物が口を開くのと同時に叫んだ。
目は血走っていて、口からよだれがぼたぼたと垂れていた。
だが、血と溶けた化粧で汚れたその顔の奥に、俺の好きだったC子の顔がちらりと見えて
俺は恐怖と同時に、懐かしさと愛しさという場違いな感情と涙がこみあげるのを感じた。
「……A!C子が…!助けてくれA!!!!」
振り返った俺が目にしたものは、赤ん坊の胸ぐらを掴んだまま、
しかし緑の顔から飛び出た黒い顔の口に顔をすっぽり飲まれて、
太い首がわずかに見えるだけのAの姿だった。
「う、うあああ!!!」
俺は何も考えず突っ込み、Aと赤ん坊を引き離そうとした。
「落ち着け!俺は普通だ」
化け物の、男とも女とも、若者とも老人とも見分けがつかないような
恐ろしい顔の隣にAの四角い顔が、至って普通の表情で割り込んでいた。
「わあああ!!!!うわああああ!!!!」もう、最悪の悪夢だった。
夢ならマシだ、俺は狂ってしまったんだろうかと思った。
「落ち着け。そこのハサミで、C子ちゃんとこいつを繋ぐ緒を完全に切れ」
「お、俺、怖い、もういやだ」
「お前、C子ちゃんの彼氏だろ、早く助けてやれ!念を断ち切るんだ!急げ!」
Aが俺を一喝した。
「ぐっ」俺の喉が勝手にきゅっと締まって鳴った。


16:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 06:59:42.61 ID:th0ZeXZU0

その途端だった。背後からタックルをかけられたかのような
強い衝撃で俺は床に倒され転がった。C子が俺の足下にまとわりついていた。
俺は、俺の下半身に手足を絡ませ爪を立てながら
俺の体を這い登ってくるC子を体に乗せたまま床を這い、
C子と赤ん坊を繋ぐその肉で出来たロープ…「緒」に
突き刺さったままのハサミに手を伸ばして、それを抜いた。
「緒」は、絡み付いていた粘性の黒い血が床に落ちて、
やけに艶やかなピンク色を覗かせていた。
焼肉屋にはもう一生行けないかもしれない、この期に及んで
妙に冷静になって、ふざけたことが頭をよぎったが、
これでC子が助かるのなら。俺はそれを掴むと、ハサミを入れた。
俺の背中の、すでに襟元にまで手をかけて迫っていたC子の体が
びくんと跳ね上がったのを感じた。
それと同時に、また声にならない叫び声が部屋全体を震わせた。
俺は頭を抱えて突っ伏した。

「大丈夫か」
多少汚れているが、いつものAの顔が俺を覗き込んでいた。
差し伸べられた手を掴み、体を起こす。
「C子は…?」
C子は俺の隣に、白い四肢を投げ出して倒れていた。


17:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 07:03:12.77 ID:th0ZeXZU0

Aは居間のダイニングチェアにかかっていたC子のパーカーを
まるで死んだかのようにぴくりとも動かないC子の体にかけてやり、
人形みたいに力の抜けた体を抱き上げた。
そして俺たちは奥の寝室のベッドにC子を寝かせた。
目を閉じたまま動かないC子の顔は、泣きつかれて眠っている子供のようだった。
俺はその汚れた顔を、ベッド脇にあったウェットティッシュで拭ってやった。
頬は温かくて、C子はちゃんと息をしていた。
AはC子の額に指を2本揃えて、小さな円を1回描いてから数秒間指をじっと当てた。
そして「うん、平熱。」と頷いてから、俺を促しC子の寝室を出た。
寝室のドアを閉じると、先ほどの騒ぎが嘘のように
いつもどおりの、俺が知っているC子の部屋がそこにあった。
ギャル趣味とサブカル趣味のカオス、だけどやっぱりなんとなく
いいにおいのする女の子の部屋だ。
「…なぁ、あの化け物は、産まれなかった赤ん坊の霊なのか?」
「違う違う、霊なんてものはない」
Aは妙に慌てた顔をして打ち消した。
Aは小さい頃のトラウマのせいで、幽霊という単語を異様に嫌がる。
「これはC子ちゃんが自分で作ったネンキだよ」
「ネンキ…」

ネンキ、という言葉をAとAの家族の口以外から
聞いたことがないので、これが一般的な言葉なのか
それとも俺が知らないだけかよくわからないが
たぶんネンキは「念気」と書く。
Aは高校の頃もよく、お前はネンキにマカレヤスイ、と俺について言った。
今回も、俺はC子ちゃんのネンキにマカレタらしい。
Aの言っている意味は
(煙に巻かれるように)念というものに巻かれやすい、と
俺は理解しているのだが、本当のところは正直
いまだにわかったようなわからないような感じなので
説明がうまくできない。


18:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 07:05:34.16 ID:th0ZeXZU0

Aはダイニングテーブルのある部屋を見回して言った。
「C子ちゃん自身に力はそんな無いから、何か
 力の増幅器みたいになってる物があるはずだ。
 女の子でよくあるパターンとしては…河原で石を拾ってくる癖とか、
 骨董品や人形集めが趣味ってことは無いよな?」
Aが眠そうな目を見開いてカラーボックスの中を覗き込もうと、
大きな背中を丸めピンクのクッションを踏みつけたときだった。
バキッ、と木が割れるような音がした。 「あっ」
クッションの側に落ちていたらしい狐面の、せり出した口許が無惨にへこんでいた。
Aはそれを拾い上げて、まじまじと見つめた。
「なるほどな。この狐のお面が、C子ちゃんの力を増幅してたんだよ。壊れてるけど」
「なんか古そうな物だなと思ったんだ、やっぱりいわくつきの…?」
お前が壊したんだよ、と言いたくなったのを飲み込んで、俺はAに聞いた。
Aは鼻でフフンと俺の問いを笑い飛ばした。こんなときなのに少し腹が立って
卒業アルバムの女子の「ピエールマジキモイ」の落書きが頭に浮かんだ。
Aがクッションに腰を下ろしたので、俺も座った。面の内側をフンフンと嗅いでAは言った。
「C子ちゃんはこれ、どこで手に入れたんだろうな。呪具だよコレ」
「呪具?」
Aは狐面を自分の顔に乗せると、しばらく虚空を見上げ、それからポン、と手を叩いた。
「わかった。だきに様だ」
「ダキニ様?」
「そうそう。だきに様っていうおまじないが一昔前に流行ったんだよ。
 だきに様にお願いをしながらセックスをするときれいになれる!
 願いが叶う!キャー!」
Aは拳を作った両手を顔の前に持っていき、体をくねらせながら言った。


19:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 07:13:55.57 ID:th0ZeXZU0

「…いろんなおまじないがあるんだなあ」
妹が小学生の頃、占いやおまじないにハマって、花かなんかを入れた水を
部屋で腐らせて母親に怒られていたが、セックスまで使うおまじないがあるとは、
なんだか恐ろしいなと思った。そもそもダキニって何?と俺はAに聞いた。
「ダキニっていうのは、インドの女神ダーキニーのことで
 日本の密教に入ってくると荼枳尼天として狐に乗った女神の姿で描かれた。
 それがお稲荷さんの信仰に型を変えて行ったんだな」
こういう話をするときのAはとても饒舌だ。
「コックリさんなら知ってるけど…」
「だきに様は、それとは違う。ダーキニーは密教での性的ヨーガという
 セックスのエネルギーを利用する儀式の際、行者のパートナーとなる存在なんだ。
 だが実際は、行者はダーキニーをイメージするだけで、生身の女性の体を
 抱く必要はない。ほれ、オウム真理教の麻原が、自分の愛人たちをダーキニーと呼んで
 ハーレムを作ってたろ。そういう勘違いや密教への偏見が、
 都合のいい「だきに様」を生んだんだな。
 願掛けしながらのセックスによってエネルギーを作り出し
 自分の願いを叶える。そういうセックスは快楽が半端じゃないから…すごいらしいぜ」
Aは遠い目をした。そういえばAに女性関係の浮いた話は今まで聞いたことが無い。


20:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 07:15:28.13 ID:th0ZeXZU0

「まあ、そのおかげで指名も増えるし、風俗嬢のなかでずいぶん流行したらしい。
 特にうちの地方は稲荷神社がけっこうあるからなあ」
「だきに様なんて知らなかった」
「俺らが生まれるちょっと前くらいの話だしな。んで、ダーキニーを
 身近なものに置き換えたのが狐グッズ。おまじないは狐グッズを身につけ、
 拝むことってわけだ。別に面とかじゃなくても鉛筆でもハンカチでも何でもよかったはずだけど。
 狐グッズか…、当時の北海道の土産屋は儲かっただろうなあ」
Aがひらひらと狐面を振った。ヤケてしみのついた、見るからにカビ臭そうな面だ。
C子はどこで買ったんだろう。俺なら無料と言われても絶対いらない。
「でも、C子とそのだきに様に関係が?俺らが生まれる前に流行したものだろ?」
「そう!!C子ちゃんは、ナンバガのファンだったんだろ。しかも狐面を買っちゃうほど
 ディープに好きだと主張していたわけだ。だがこの部屋の、絵に描いたようなサブカル趣味を見ろ。
 まるで誰かに見せるためみたいに用意されているみたいだ。アストロ球団、映画秘宝、
 ポリシックスに、キューブリック映画のポスター。好みに全然一貫性がないんだ。
 これは本当のサブカル好きじゃない、ただのファッションだよ!」
身を乗り出し、つばを飛ばしながらAはまくしたてた。
「A、お前のこだわりはわかるけど、今はそんな話をしている場合じゃないよ」
「いや、重要なんだ」
Aは続ける。


21:本当にあった怖い名無し2011/06/13(月) 07:15:46.20 ID:hl4P3obO0




22:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 07:17:07.57 ID:th0ZeXZU0

「強いネンキは、激しい思い込みが作り出す。なんでも始まりは単純だ。
 この面は、C子ちゃんにとっては、好きなバンドへの強い憧れと、
 不思議で特別な物を手に入れたというミーハーで浮ついた気持ち。
 それくらいだったはずだ。
 しかし、この面を呪具として使った前の持ち主の念が
 C子ちゃんの念と同調し、C子ちゃんの強いストレスが引き金になって
 それこそC子ちゃんのキャパを越える程のネンキを作り出した」
「お面の前の持ち主は、そんなに強い願掛けをしたのか?」
「この面にかけられた願いは、女性として幸せになりたいっていう
 ごくごく普通のものだったはずだけど…」Aは渋い顔をして言葉を切った。
「その、引き金になったC子のストレスって何だったんだ?」
「そりゃお前に嫌われるんじゃないか、っていう不安しかないだろ。
 C子ちゃんの願いも、普通に幸せになりたいっていう単純なものだったはずだ」


23:本当にあった怖い名無し2011/06/13(月) 07:51:36.13 ID:9hcNUkid0

4円


24:本当にあった怖い名無し2011/06/13(月) 07:58:57.25 ID:lqant3LfP

出勤前の支援


26:本当にあった怖い名無し2011/06/13(月) 10:20:19.66 ID:Ngkrj1HH0

続き待ってるよ


27:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 19:05:41.07 ID:th0ZeXZU0

戻った!投下中断の書き込みができず
本当に申し訳ないです。支援ありがとう
続き投下します


28:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 19:07:05.93 ID:th0ZeXZU0

「はああ!?」
俺は叫んだ。C子に猛烈に腹が立った。
普通に幸せになりたい女の子が、妊娠と中絶を繰り返して、
それを姉だか何だかのせいにするか!?わけわかんねえ。
「しかもC子は俺を殺そうとしたんだぞ!?」
思い出したら、さらに頭に血が上った。
俺に嫌われたくないと言って殺そうとする奴がどこの世界にいるんだ。
Aに言ったってどうしようもないのに、俺はAに向かって怒鳴った。
それでも収まりがつかなくて、ちゃぶ台みたいな低いテーブルを蹴飛ばした。
このテーブルでC子の作った料理を食べた。
Aは腕を組んで、黙っていた。
俺はC子を大事にしてたのに。隠し事をして、
全部すっちゃかめっちゃかにしたのはC子のほうだ。
高校のときにC子が何してたって、そんなの俺が知るかよ。

テーブルを蹴っ飛ばしたときに金具に当たった足の甲が
じわじわと痛みだし、その痛みと反比例するかのように心は落ち着いてきた。
「…どこからどこまで、その、念のアレなんだよ?これは夢なんだよな?言ってくれ」
「まあまあまあまあ」
拳を握って黙り込んだ俺の頭を、Aが軽く叩いて言った。
「C子ちゃんの所に行ってやれよ、続きはあとでにしようぜ。C子ちゃんが待ってる」


29:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 19:08:44.66 ID:th0ZeXZU0

俺の先ほどの慟哭も知らないで、寝室でC子は安らかに眠っていた。
C子の顔を見たら、ここ数日のいろんな出来事がフラッシュバックした。
病院に連れてってやるとか、警察に突き出してやるとか、お祓いを頼むとか
いろんなことを俺は考えていたはずだが
長い睫毛を伏せて寝ているC子の顔を見た途端、自然と涙がせきを切ったように流れ出した。
寝室には入らずにドアに寄りかかっていたAが言った。
「C子ちゃんは、違う誰かになろうとして、ずっともがいていた。
 なりたい自分になるため、部屋を飾ったのかな。
 でもなんでサブカルなんだろうなーと思ったんだけどさ、
 アストロ球団も映画秘宝も、この部屋にあるもの、
 全部お前の趣味じゃん。ただバラバラに集めてるせいで
 統一感がないけどな。お面だって、お前の気を引く意味もあって
 買ったんじゃないのかねぇ。乙女心だわねぇ」
「知るかよ、ちくしょう」
俺は自分のことばかり考えていなかったか。C子のために旅行費用を稼ぐって言って
C子との約束を勝手に破って。その旅行の目的だって、実際のところ俺はよこしまな気持ちだった。
俺は自分の理想の恋愛を、C子に押し付けようとしていた。
C子が何か俺に求めても、俺の心の準備が整っていない限り全部無視した。
だって生身の女の子と付き合うって初めてだったし。でも格好つけて
俺はそういう自分の気持ちをC子に話さなかった。そういうすれ違いが、
過去はどうあれ、C子の何か心の傷をえぐったのかもしれない。


30:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 19:10:03.91 ID:th0ZeXZU0

「…C子、不安にさせてごめんな。C子がどんな子だって、俺にはやっぱC子が初めての彼女だ。
 俺、C子と屋久島行きたいし、朝めんどくさいけど学校にも一緒に行きたい」
C子は目を閉じたまま動かなかったが、俺にはC子が笑ったような気がした。
やっぱり最悪だこんな奴。頭を殴られて死ぬところだったし。
そうだ、明日絶対病院に連れて行こう。全部話を聞いて、付き合ってやろう。

「お前もそろそろ目を開けろ」Aが言った。
「えっ」
「お前が見た怖いもんは、全部お前の、今これを見たらやだな、っていう
 思い込みと不安がネンキと同調してお前に見せたもんだよ。もう大丈夫だ。
 携帯はどこに置いてきたんだ?」
そうだそうだ、さっき変だと思ったんだ。携帯。俺は自分の行動を辿った。
今朝はC子から電話があって、バッグに携帯を入れて、
夜携帯が鳴ったので出て、そしてその携帯を俺は、
そのまま床に放り出して部屋を飛び出した…そして家の前で携帯を忘れたことに気付いて
俺は引き返そうとして…
「そうだ、携帯はまだお前の部屋にあるよ」

目が覚めた。また病院の白い天井だった。ついこないだ、生まれて初めて
救急車に運ばれて、点滴を打たれたばかりだというのに。
寝ていた俺の傍らで母親が泣いていた。どこかでみた構図だ。


31:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 19:11:48.66 ID:th0ZeXZU0

母と、出張だったはずの父が俺の手を握り、その手に額をこすりつけて涙を流していた。
俺は100年ぶりに目を覚ました人間のように、注意深く目を動かして病室を見渡した。
病室の隅に置かれた椅子で、Aが腕を組んで寝ていた。
くすんだミカン色のタンクトップ、短パン、足下にはデパートの白い紙袋が落ちていた。

「37分の電車に乗れそう」「会いたくないんだ」
C子はあの朝、俺との電話を終えた足でマンションに戻って
風呂場で手首を切って死んだそうだ。第1発見者はデリヘルのマネージャーだった。
C子の住んでいたマンションは、事務所と寮が入っていたらしい。
そしてその日の夜、母が言うには、突然俺は血相を変えて
外に飛び出して行き、それから道路で倒れているところを近所の人に通報された。
頭蓋骨にヒビが入っていたらしく、結局意識が戻ってからも3週間入院した。
何故俺が倒れていたかの原因はわからない。事件に巻き込まれた可能性もあると
警察の人が聞き込みにきたけど、俺の記憶では、
俺はちゃんとC子のマンションに行ったのだから
結局警察には何も答えられなかったので、医者とも話し合って、
俺が1人で転んだんじゃないか、という話で落ち着いた。
「C子ちゃんがあんたを呼んだのかな」と母が1回だけ言ったことがある。
C子のささやかな葬式には母とAが出てくれたそうだ。
第1発見者について、俺が思わず嫌悪感を表したとき
「ずっと働いていたらしかったけど、今はもう辞めてたそうよ。
 C子ちゃんはお父さんもお母さんもいないから
 マネージャーの方が親代わりになっていたそうなの」と庇った。
なんか複雑で、可哀想な子だったんだね、と母は言った。


32:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 19:14:39.30 ID:th0ZeXZU0

「37分発の電車に乗れそう。俺君は今日来るの?」
それがC子の最後の言葉になった。
俺が電話を切ったからだ。
「自分を責めるなよ」
Aはそう言ったが、そうだな、なんて笑えるわけなかった。

俺が入院しているあいだ、Aはほぼ毎日見舞いに来てくれた。
最初のうちは、俺も少し喋っただけで疲れてしまって
寝てばかりで話せなかったが、Aはいつも病室にいてくれた。
見舞いに来てくれた他の友人が、
「Aはホモなんじゃないか」と言うくらいだった。
俺は、俺が意識不明だったときに体験したものが、どこからどこまで
実際にあったことか、Aにまだ聞いていなかったし
Aも自分から言うことはなかった。C子の話はしないで、いつもどうでもいい話ばかりしていた。
でも俺の命は絶対Aに助けてもらったんだという確信はあった。
俺を心配してくれるAに、心の底から感謝していた。
ただ、あとでわかったのだが、Aはもちろん俺のことも心配だったらしいけど
俺が寝ててもずっと病室にいたのは、俺の担当の看護婦さんが好きだっただけだった。
俺が退院する日に連絡先を聞いて断られたという。

退院が近づいた日、俺はやっと回るようになった頭で
ずっと疑問に思っていたことをAに言った。
「C子にはやっぱり、姉がいたはずなんだ」
「姉?」Aの眉がぴくりと動いた。


33:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 19:18:22.93 ID:th0ZeXZU0

俺はあの日、C子のマンションに行く前に事故に遭っていたのだから
マンションでの出来事は、全部Aの言ってた「ネンキの中」での出来事にすぎない。
そうなると、その前の「現実」の夜、俺の前でビールを2缶飲み干した
金髪の女は誰だったんだろう。C子は、その姉への罪悪感のために心を病んでいたと
"姉"自ら俺に語ったのだから。俺はその出来事を始め、C子との全ての顛末をAに話した。
「正直、自信が無いんだ。C子が大家さんに言ったみたいに全部俺の自作自演で、
 やっぱり俺は頭がおかしくなってるんじゃないかなって」現に俺は脳挫傷を患ったわけだし。
するとAは携帯をポケットから取り出し、何やらカチカチと操作して
画面を俺の鼻先につきつけた。携帯用ホームページだ。紫色の背景が目に刺さる。
ゆっくりと画像が読み込まれ、人差し指を唇に当ててポーズを取る
金髪の女性の写真が表示された。
「…!」姉は実在したんだ。でも、やっぱりこの顔は。
「これはC子が勤めていたデリヘルのホームページだ。
 粗い画像だけど、知ってる人なら写真みたら、やっぱわかっちゃうよな。
 4月からは事務をしてたらしいんだけどプロフィールは残ってた」
パチンと携帯を閉じてからAは椅子を寄せて座り直し、
次にまた自分の紙袋から1枚の紙を取り出した。履歴書だ。
カツラはつけていないが、派手目な化粧を施したC子の顔写真が貼ってあり、
生年月日を記入する欄には、俺には見慣れない数字が並んでいた。


34:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 19:20:14.93 ID:th0ZeXZU0

「この履歴書は、C子の勤め先のマネージャーのおっさんに借りたんだ。
 見た目はまんまVシネのヤクザだけど、いいおっさんで、C子の境遇に同情して
 自分はC子を助けたかったって泣いてたなあ。
 わかっただろ。C子は俺らより1つ年上だ。高校にも聞いたら
 1浪で入学したのは確かだったし
 C子と病院に付き添ったことがあるEも、これについては知ってたよ」
Eは講義のノートのコピーを持って見舞いに来てくれたが、C子のことは話さないで
ただ「俺の見舞いしたあと俺より重傷とかウケるね」と言っただけだった。Aが続けた。
「だから、ある意味”お姉ちゃん”が"C子"本人で
 お前が付き合ってたC子は、"C子の生まれなかった妹"なんだ」
「…どういうことだ?」
「10数年前、C子に妹が出来た。でも、C子は
 たぶん母親が腹に話しかけてるのを見て気に食わなかったか何かして、
 ある日、寝ている母親の腹に勢いをつけて飛び乗った。
 母親はそのショックで流産してしまった。
 当時のC子は2歳近く。小さな子供といえども、その後の騒ぎとかで
 自分のした事の重さがなんとなくわかったんだろう。そのときの記憶は
 C子の心に強く残った。さらに、母親は逆にC子ちゃんを憐れんで、
 失った子供への愛情を埋めるように過保護ともいえる愛情を注ぎ始めた。
 それが余計にC子の、自分が殺した妹への罪の意識を増幅させたんだ」


35:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 19:26:47.71 ID:th0ZeXZU0

でもさ。俺は淡々と話すAに割り込んだ。
「"C子の姉"は、C子は姉に子供をプレゼントするため妊娠中絶を
 繰り返したって言ってたぞ。死んだのは妹なんだろ?」
「C子の家は、C子が中学生の頃、父親が浮気相手を孕ませたうえに
 離婚してるんだ。その父親への嫌悪感、母親からの愛情のプレッシャー。
 いろんなものが合わさって、C子はやっぱ自傷行為として男と寝てたんじゃないかな。
 C子は、自分と家庭の不幸の全ての原因は自分が妹を流産させたことだと考えた。
 "人殺しの、全ての原因の最悪の自分"は姉で、
 "生まれるはずだった、母に愛される真面目でいい子"は妹。
 でもC子は二重人格にはなれなかった。自分でそう強く思い込んで、
 自分を分けようとしてただけだ。その努力がまた、わかりやすく
 この趣味の違う部屋や、趣味の違う服装に表れたんじゃねーかなあ」
話しているあいだ、AはC子の履歴書に貼られた顔写真をずっと見ていた。
「大学に入り、どういう趣味だか知らないけど、C子はお前のことを好きになった。
 マネージャーのおっさんに、お前と出会って生まれ変わった気がする、って言ってたらしい。
 たぶん女慣れしてないくそ童貞のお前がC子ちゃんを理想の女として扱ったから嬉しかったんだろ。
 そんなC子ちゃんにとって最大の不安は、お前に過去を知られることだった。
 だが、お前らの学部にはEを始め、C子の過去を知ってる人間がいた。
 誰かがお前に全て話してしまうかもしれない。
 だからC子ちゃんはお前と学校で四六時中一緒にいたがったはずだろ」
そうだ。朝一緒に登校しようと提案したのはC子からだ。


36:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 19:29:01.46 ID:th0ZeXZU0

「C子にとってお前を失うかもしれない不安は相当なストレスになっていたはずだ。
 でも、バイト三昧で素っ気なくなったお前にC子ちゃんは
 いろんな疑いを持ったんだな。その強いストレスと、お前への執着が、
 色んなものと同調して今回のことを引き起こしたきっかけになったんじゃないかなと思う」「ネンキか」試しに俺が言ってみると、Aは「そうそう」と軽く流した。
化け物が何度も叫んでいた産まれたいという言葉、姉に子供をプレゼントしたいという話。
それは生まれ変わりたいというC子の心の叫びだったのだろうか。
それとも、C子が堕胎した命たちの叫びか、お面にこもっていた女性の念?
俺にはわからなかった。後々Aのばあさんが鑑定したところ、あの面の前の持ち主は
一度風俗から足を洗って結婚したものの、度重なる堕胎のせいで不妊となっていたのがわかって
一方的に離婚されてしまい、結局また風俗に戻って来た女性のものだったという。
その女性の現在の生死については、Aが聞かなかったというので知らずじまいだ。
俺を何度も襲った化け物はC子の念だったのか、その女性の念だったのか、
それが合わさったものなのか。それとも全部、それこそ俺自身の思い込みだったのだろうか。
証拠もないし、証明できるすべもない。


37:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 19:31:35.41 ID:th0ZeXZU0

俺は退院して、実家へ戻った。だがやはりC子が自殺したのは俺のせいとしか考えられず
結局大学をやめて、ずっと家でバイトもせずに
寝て起きるだけの日々を送っていた。後遺症の恐れもあったし、
口うるさい母もあまり何も言わなかった。
「俺もC子に執着してたのかもしれない。今も」
そう言った俺に、遊びに来ていたAがひとつ不思議な話をしてくれた。
「念や執着は、俺やお前が自分でいるためには必要なものなんだ。この世の全てのものは
 自分の姿をネンキで維持してる。でもその執着を放棄しようとしたり、
 ネンキが他のネンキとたまたま同調する瞬間があるんだな。
 そうなってしまえば、もうそこは今までいた場所とは違う世界だ。そうやって知らない間に
 現実もどんどんずれていっているんだよ。お前が見たり感じたりした恐ろしいものは、
 ネンキがずれた世界の隙間から見えるものだ。C子ちゃんはその隙間に落ちたんだ」

もうひとつ解せないことがあった。
俺の携帯の、あの日の着信履歴には
非通知設定の番号から
朝と、そして夜の2件の着信が入っていたのだ。

「いやー、ずれてるねい」
Aは笑うだけだった。


38:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 19:33:57.94 ID:th0ZeXZU0

それから俺の周りに不思議なことはなくなった。ただ、たまに実家のドアの前や
道ばたで、あの石の山を見かけることはあった。だが特に何も起きなかったし
別の大学に受験して、入学したり忙しくしているうちに、
次第にそれも見なくなった気がする。そもそも見間違いだったのかもしれない。
もうすぐ本格的な夏が来る。C子という女の子が死んだ夏だ。
俺は2年前に結婚して、もうすぐ子供が生まれる。
奥さんは実家に帰って出産準備をしている。
お腹の子は女の子だと聞いた次の日の朝、ドアの前に
あの石の山が積んであった。
1人では抱えきれないから、体験談を投稿することにしました。

おわり


41:本当にあった怖い名無し2011/06/13(月) 19:58:49.79 ID:pIEI4QKe0

乙。
非常に面白かった。
シリーズ物スレなので、続けて書いてくれると嬉しい。


44:Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 2011/06/13(月) 20:12:54.78 ID:th0ZeXZU0

本来のスレの雰囲気なら、最初にAとの軽い話を書いて、もし好評だったら
やたらに長いこの話をするべきだったなと今更思うよ。色々焦っててKYだった。
2スレにも渡ってスレを使わせてくれた住人には感謝です。
またAとの話を(今度は短いのを)書き込みに来たいと思います。
が、この話を投下し始めたら
数年ぶりにあの緑の化け物の夢を2日連続で見てしまい
先週全然寝れてないせいで倒れちゃって。喉痛いので今日はもう寝ます。
ネンキはオカルト詳しい一般の人の認識では生霊のことなのかね?
でも確かに生きてる人の念が一番怖いと思う。
先日ドアの前にあった石の山だって、もしかしたら俺がやっぱり
自分の中のC子の念にふと同調して、自分で置いたんじゃないかなという気もする。
あとは実況スレの話題になっちゃうので、このへんで失礼します。


45:本当にあった怖い名無し2011/06/13(月) 21:01:55.95 ID:lqant3LfP

>>44
思い出を綴るってのは再体験だ
ましてそれを人に分かるように伝えるとなると深く、何度も思い出さなきゃならない
それで自分でネンキを作っちゃったのかもしれないな

今出来る話は今した方がいいよ
焦ってKYでもいいさ
明日生きてる保障は誰にだって無いんだし

おやすみ、ゆっくり休むといいよ
おつかれさん


56:本当にあった怖い名無し2011/06/14(火) 23:05:53.20 ID:WayG5Fd60

>>44
面白かったよ。乙。


46:本当にあった怖い名無し2011/06/13(月) 21:02:43.87 ID:aucM8G7h0


面白かったよ
奥さんとお子さん守れる(精神的な)何かが欲しいところだね

ウチは親父が力のある人との付き合い多かったけど
俺自身いざとなった時に頼れる人がいないのが心細い

修法を学んで結縁灌頂を受けても下級霊の脱霊ぐらいしか
出来ないししたこともないから深みに填った時の拠り所が欲しいよ


47:本当にあった怖い名無し2011/06/13(月) 21:14:16.51 ID:yFes+wTv0

Aの友人さん、乙。
なかなか、良い話だった。
お地蔵様を信仰されると良いでしょう。


48:本当にあった怖い名無し2011/06/13(月) 23:35:34.95 ID:eW04Pzz80

クオリティ高須クリニック。
続いてくれるとうれしい。


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